4話目 夏祭り・中編
「先輩、何か面白いものとか無いんですか?」
「無いよ!ていうか早く来すぎだから」
今はお昼過ぎ。会社員ならお昼休みが終わって午後の仕事が始まる頃だ。夕方から始まる夏祭りに行くのに学生からすれば夏休みの「朝っぱら」から人の家に上がりこむ理由が分からない。
「家にいても暇なんですよぉー」
ソファの背もたれに頬杖をついて足をパタパタと振りながらさつきがぼやいた。
「暇なら誰かと出掛けてくればいいじゃん?」
食卓の椅子に座って麦茶を飲みながら答えた。
「じゃあ先輩行きましょうよー」
さつきは膝立ちの状態でソファの上を飛び跳ねていた。壊れるからやめなさい。
「いやー、ほら俺友達との約束詰まってるし?部活も忙しいし?」
俺が少し考えてから鼻高らかに弁め、、、、説明してる間にさつきの姿が消えていた。
まさか、、、、
リビングを出て階段を駆け上がると俺の部屋の扉が開いていた。部屋に入ると四つん這いになってベッドの下を覗いているさつきがいた。
「、、、、何してんの」
「セクシーな女の人隠してたりしないかなって」
「俺をどんな人だと思ってんのさ」
「さすがに冗談です。先輩のカレンダー見に来ただけです」
「あ、、、、」
さつきは今日何度目かのイヤな笑顔をみせた。
「カレンダーの予定スッカスカですけど、、、、?それに先輩帰宅部ですよね?」
「、、、、、、」
完全に論破されて何も言い返せなかった。
そしてその30分後、俺はさつきに駆り出されて市内の映画館にいた。
「お前ってあんなのが好きなの、、、、?」
「先輩って意外とああいうの苦手なんですね」
さつきのことだから恋愛映画でも見ると思っていたのだが、さつきが買ってきた2枚分のチケットはバリバリのホラー映画だった。
「だって井戸から女の人出てきたりテレビぶち破ってくるとか怖いじゃん」
「それがいいんじゃないですか!」
「あぁ、うん、そうだな。、、、、それはそうと今日は何か周りからの視線が多いな」
これ以上ホラーの話をしても無駄だと思って話題を変えた。
「そりゃあ今日は先輩の隣に可愛い後輩が居ますからね!」
さつきは小悪魔な笑顔をこちらに向けた。
「可愛いとか自分で言っちゃうんだ!?」
まぁ否定はしないけどさ。
「どうせカップルとかに見えてるんだろうな」
「じゃあ手とか繋いでみます?」
「繋がない!!」
「えーー!」
さつきは大層不満そうな顔をしていた。
もしここで手を繋いだりなんてしたらこの後の夏祭りで身が持たないから、という理由は言わなかった。
「ほら、もうこんな時間だから帰るぞ!時雨だって準備とかあるんだろ?」
さつきは口をふくらませたまま目だけこちらに向けてきた。
「、、、、じゃあ後でたこ焼き奢ってください!」
さつきはそれだけ言うと早足に歩きだした。
「え、えぇー、、、、」
女心ってよく分からない。そう思いながら俺はさつきの後ろを追いかけた。