3話目 夏祭り・前編
──夏休みになった。
アスファルトは熱したフライパン並に熱を放っている。
俺は部活に入っている訳でもないから夏休みの間、外に出る用事はほとんど無い。
それでも少しコンビニに買い物をしに家を出ただけで熱中症になるんじゃないかというレベルの気温だ。
もうこれは極力引きこもるしかない。
ピンポーン
冷房の効いたリビングでごろごろしていると、インターホンが鳴った。
モニターを見ると、見覚えのある少女が映っていた。
一応念の為、玄関の扉に付いている覗き穴から外を見てみた。
玄関の前に立つ少女は、案の定というか、さつきだった。
「せんぱーい!翔太先輩!出てきてくださーい!いるのは分かってるんですよ!」
さつきは扉をガンガン叩きながら叫んでいた。出るのが面倒くさいから居留守を決めることにした。
「いいんですか?このまま出てこないと先輩のこと色々暴露しちゃいますよ?いいんですね?」
「おはよう時雨!来るのを待ってたよ!さぁ入って入って!!」
あるのか分からない俺の弱みをバラされても近所迷惑なので仕方なく出迎えてあげることにした。仕方なく、だ。
「おはようございます、、って、もうお昼すぎてますけどね」
さつきは「おじゃましまーす」と家の中に呼びかけてから敷居を跨いだ。
リビングのソファに腰掛けたさつきは少し緊張しているのか、手を膝の上に乗せて背筋を伸ばしていた。
「親なら仕事行ってるから今は俺1人だぞ?」
さつきが緊張する理由はこれくらいだと思って、一応言ってあげた。俺の言葉を聞いたさつきは途端、姿勢を崩した。行動が分かりやすいな。
「先輩しかいないなら先に言っておいてくださいよ!」
「いや突然来て何言ってんだよ、、、、その手をやめろ!」
何の連絡も無しに来たんだから伝えようがない。俺は手をにぎにぎさせながら近づいてくるさつきの頭に手をポンと置いて止めさせた。さつきは一瞬目を丸くさせた後、顔を綻ばせた。
しまった。完全に自滅だった。
不意打ちのさつきの笑顔は俺を耳まで紅くさせた。
「、、、、で、結局何の用なの?」
何度か深呼吸して心を落ち着かせた俺はようやく本題に入った。、、、、はずだった。
「え゛!?忘れたんですか!?夏祭りですよ!!今日なんですけど!?」
さつきは噛みつかんばかりの勢いで俺に迫ってきた。鼻がくっつきそうな近さだ。
「あー、そんなこともあった、、かな?」
「、、、、、、」
さつきは怒りを通り越して呆れた表情になっていた。さつきはその表情のままくるりと背を向けると、玄関に向かっていった。
「聞いてくださーい!翔太先輩はー!」
玄関の開く音に続いてさつきの大きな声が聞こえてきた。
「ち、ちょっ、、!!」
俺は慌てて玄関まで走って行くと、玄関から顔を出しているさつきを引っ張り込むと、扉を閉めた。
「行きます!行くから止めて!穏便にいこう!、、、、な?」
俺はさつきを何とかなだめると、さつきはにこーっと笑った。
「分かればいいんです!」
そんな訳で俺は今日この後輩と夏祭りに行ってきます。