蛇には、去り行く理由があった。1
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にゃんだかにゃ〜、
取り返せないほどムカついたから、
あの女の部屋を出て、
公園で
数日野宿(?猫だけど?野宿って?)してたら、
あの女が探しに来るもんだから、
ちょっと木の上に隠れなければって、
木の上へ登る。
「ダーリン」
「マイダーリン〜!」と
大声で呼ばれるから
他の猫たちに
恥ずかしし、早くどっか行け。
もう、黒いこの身をなおさら黒くして
息を潜めて、眼を瞑って、
あの女がとおり過ぎるのを
待っていたんだよ。
そこで出会った。
漆黒の蛇。
木の上での出会いであったので、
お互いがお互いをまじまじと
見つめるしかなくて、
あたし、その蛇のねっとりとした、
あたしに惚れてるんじゃないかと
錯覚しそうになるほどねっとりとした、
その眼に実は覚えがあって、
昔、あの女の部屋に守り猫として
いてやるようになるまでの、
この街にやってきた直後のあの時に
この公園で会ったことがある。
ああ、思い出した。
すげ〜求愛うけたんだった。
異種間恋愛をしようって、
迫ってきたんだったよ。
やっべー。
あんとき、
にげるのにけっこーくろーしたもんなー。
はやいとこ、おぼえてないふりして、
行ーこうっと。
『待って、あなた。』
ヤベッ。
知らんふり、知らんふり。
『ちょっと、待ちなさいよッ』
ダメか?
「なんだよー?」
『あなた、もしかして、……』
にゃ、に〜。
ちゃんと、覚えてるんだ、
よし、ここは少し冷たい感じで、
「なによ?」
『もしかして、ここらで有名な恥ずかし猫さん?』
!ッ!
バカッ、あのバカ女ッ!
あいつのせいで……、
『大声で、好きな人間の名前呼んでケンカしてた』
にゃ、にゃに〜?そっちか?
『あの、恥ずかし猫さんでしょ?』
う、嘘。
わ、吾輩、一生の、ふ、不覚なり。
『でも、もっと前に、もう何年も前に』
『この街に私がやって来た頃にも』
『一度お会いしてるわね?』
やた、話、それた!
「あー!そーいえば、会った会った。」
「お会いしましたよねぇ!」
「お懐かしいですわねぇ?」
「その後、如何お過ごしですか、お元気ですか?」
「私は、元気ですよ、元気で元気で、誰とでも」
「ええ、理由もなしに、誰とでも」
「ケンカしたくなって、困ってしまうほど」
「元気なんですよ。」
「ははは」
く、くそ〜、なんであたしこんな思い?
しなくちゃ、にゃらにゃいんだよー?
意味、わかんにゃい。




