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5000万の男

内容かなり変わってます。

混乱させて申し訳ないです。

 5000万ガスティオ金貨。繰り返そう。5000万ガスティオ金貨である。ミヒャエルおじがバルバラ商会レバ300倍空売りで手にした金だ。


 小さな国なら買える。爵位どころではない。ミヒャエルおじのやることとはいえ、いくらなんでも額がデカすぎる。そりゃ金融屋どもも大騒ぎするわけだ。


『ファンファンポア街に激震!謎の投資家X氏による史上最大級の空売り!格付けに穴?単なるフロックか?保険ネットワーク崩壊の可能性に市場関係者真っ青!魔術犯罪の可能性も!』


 今、俺の手元にあるのは地元の新聞社が発行している経済誌で、大見出しが目次のトップに出ている。このル・ノルトルの町は王国最大の経済都市であり、俺が蛭魔術で診療する顧客には財界の大物も結構いるので世間話ではこの件は聞いてはいたが、「最低でも5000万」という金額については報道で初めて知った。かなり固そうな専門家が出した数字なのでほぼ間違いないだろう。


 さらに恐ろしいことに、なんとミヒャエルおじはこの規模の仕掛けを、完全に正体を隠したままやりおおせたらしいということある。仲介をやった銀行は当然ミヒャエルおじについては知ってるらしいのだが、顧客データの秘匿に関してはガードが固く、情報は一滴も漏れていない。噂はいろいろあったもののどれも的外れ。謎の投資家X氏の素顔は、いまだヴェールに包まれたままなのだ。


 大金抱えてる人間を俺だけが知っているというこの状況は、計画にとって最高のアドバンテージである。邪魔者の入る余地が少なくなるのは何より喜ばしい。5000万ガスティオ金貨は目の前と言えるだろう。


 さて、ミヒャエルおじの5000万をどう奪うか、この企みについて説明する時が来たようだ。その骨組みは極めてシンプル。「だまして貢がせる」これだけだ。


 サキュバス詐欺事件などでも明らかなように、ミヒャエルおじはこと恋愛になるとまともな理性は働かない。完全にのぼせあがってしまうので、だまそうと思えば簡単にだませるのだ。うちの親父が色々始末してやらなかったらどうなっていたことか。


 つまり、俺の計画はこういうことになる。恋のキューピッドとなった俺は、おじをそそのかし、ヒルミへの高額なプレゼントを買わせまくる。不動産、宝石、芸術品、仕立て物、ありとあらゆる高額品だ。


 そしてここが肝なのだが、おじには俺の作ったペーパーカンパニーを通じて買い物をさせるのである。


「荘園を贈られて落ちない女はいませんよ」とかなんとか言っておじに小切手を切らせる。振込先は俺の作った実態のない会社の口座である。もちろんそんな荘園なんて存在しない。振り込まれた金は俺のふところに入るのだ。


 荘園の話は荒い例えであって、実際にはもっと上手く行きそうな仕掛けをいくつか考えてある。それから、架空会社だのマネーロンダリングだのは親父の残してくれたコネのおかげで、やってくれるプロが結構いるのだ。


 ただし、この俺の企みには現状だと不安な点がいくつもあり、そこを埋めていく作業が絶対に必要なのだが……


 ココココーン!


 と、噂をすればミヒャエルおじの登場だ。ノックの感じからすると上機嫌ではあるようだ。


「アルベルト!ヒルミ嬢はこちらの乾燥した気候がやはり合わないようだぞ。霧の魔法で屋敷全体を覆ってはどうかな」


 ミヒャエルおじの手からはすでに微妙に白いもやが出ている。霧の魔法が白魔法扱いだったかどうかは知らないが、そんなこと許すわけがないだろう。


「勘弁して下さいよおじさん。施術院があるんですから」


 そろそろ今後への伏線を引いておくべきだろう。おじのヒルミへの接し方を上手くコントロールしないと5000万ガスティオ金貨は夢と消えるからな。


「おじさんはヒルミにかまいすぎなんですよ。四六時中世話を焼かれては女性としてはうんざりでしょう」


「しかし蛭語の研究もあることだし……」


「ヒルミ自身が蛭語をかなりを忘れているって言ってたじゃないですか。これ以上は難しくなってくるって」


 そうなのである。なにせヒルミは一人きりの期間が長かったので、複雑な蛭語はかなり

怪しくなっているようなのだ。


「うーむ……だからこそ時間が必要なのだが……」


「それからプレゼントはむやみに買わないように。信頼できる商人から買わないと大損しますし、偽物をつかませたらヒルミに恥をかかせることになるかもしれませんからね」


 人前から隔離されているヒルミに恥も何もないが、口からでまかせだ。それから、他にも重要なことがある。


「あとお金があるとは人に話さないでくださいよ。余計な連中が寄ってきますから」


 ミヒャエルおじは稼いだ金については俺以外に話していないと言っていた。ここは固めておきたいところだ。


 下準備は急がなければならない。それにすでにご説明したとおり、この計画はおじから金を吸うだけではダメなのである。それは優先順位的には二番目なのだ。


 最大の優先事項、それはおじにこの恋をあきらめさせ、ヒルミを屋敷から追い出すことである。


 今のところはまだ大丈夫のようだが、仮にヒルミの滞在と素性を聖王庁に知られたら、その時点で俺の命運は尽きる。金をいくら持っていても無意味で、吸血鬼幇助(ほうじょ)の罪で死罪か逃亡生活である。


 ヒルミをなんとかし、金を得る。この二つを同時に達成しなければならないのだ。


 過去の事例から見ても、おじは一度振られると精神的にもろく、それ以上は相手を追いかけないので、振られさえすれば後始末は簡単だろう。問題はどうヒルミにおじを振らせるかなのが……おっとそろそろ時間のようだ。


「とにかく、あまりしつこくしないほうがいいですよ。恋の相談役としてはこれだけは言っておきます。僕は所用がありますから」


 馬車を待たせてあるから早く着替えないと。かなり念入りに正装しないとならないしな。ということでじゃあねミヒャエルおじ。俺のいない間に霧の魔法はやめてね。


 それにしても今夜の段取りにも金がかかった。必要な投資とは言え、このペースで吐き出していたら身代がもたないぞ。


「ひる!」


 あー。ヒルミは相変わらず廊下を自由に歩き回っている。まずはこの状況を改善したい。おじが出ていってくれないと、この爆弾をどうにもできないから困るが、その前に色々仕込みをやっておかないといけない。


「ひるるるる」


 笑うとかの表情はあまり人間と変わらないんだよな。何言ってるかは知らん。


「ひる。ひる」


 付き合ってる時間はないんだが、機嫌損ねるわけにもいかんからな。あ、服は引っ張らないでね。あ、何コレ。ノート?


「あ」「い」「う」「え」「お」


 そう書いてありますね。おじの字だ。


「ひぁ」「ぃひ」「ぅるぅ」「ぇる」「るお」


 おー。ヒルミも努力しているのね。おじが蛭語を学ぶだけじゃなくてヒルミも人語を勉強しているのか。すごいね。って本気で時間がないんでもう行くぞ。じゃあね。お勉強頑張って。


 で、俺は使用人たちに命じてバリバリに正装したわけである。獅子肩張りのジャケットに、翼竜胸の固いシャツ、蝶ネクタイに、東方風のカマーバンド、それからうさぎ脚型のパンツ、妙に動物の名前が多いな。上流ではこれが正装らしい。服についてはよく知らんのよね。あ、それから靴はオーロックス革のピカピカのやつである。


 俺はこれから貴族連中ご用達のオークションハウスに行くのだ。買わなきゃいけない品がある。超上流の連中と競り合うのには気後れはあるものの、どうしても必要なので仕方ない。会員権を買うのにも結構な額を払ったので、気合を入れて臨みたいところだ。


 目当ての品を隠すこともなかろう。俺の狙いはドッペルゲンガー。高精度の変身魔術を操る、今日のオークションの目玉となっている魔物奴隷だ。俺はこいつを使って一財産を稼ぎ出す。馬車は石畳の町を駆け、目指すは虚栄の市というわけである。

 


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