第一章 出会い2
そう、これがすべての始まりだった。
これから続く、私たちの 長い、長い物語の始まり……。
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――――グーテンベルク。
まさか初対面のこの男の人の口からこの名前を聞くとは思わなかった。
「どうして?……どうしてグーテンベルクという名前を?」
「お前は本当にグーテンベルクなのか?」
男の人は疑っているような怪訝そうな目を私に向ける。
グーテンベルクってそんなにも有名な名前なんだろうか。それにしてもどうして私がそうだって分かったの?
混乱の中、私は正直に答えてしまっていた。
「分かりません」
「分からない?どういうことだ」
「親を知らないんです。自分がどこで生まれたのかも知りません」
「この大陸の歴史を学んだことが?」
「いいえ、ありません」
……大陸の歴史……。歴史書を見たらグーテンベルクについて何か分かるんだわ……。
私はやっぱり明日は貸本屋に行って調べてみようと決心した。
「ではなぜ、グーテンベルクの名を知っている」
その人は相変わらず訝しむような眼を私に向けていた。
それは、話すと長くなるんだけど……。
私はどう答えるべきか迷っていた。私自身、自分の家名が本当はグーテンベルクらしいと知ったのはたった5日前なのだ。それも母親らしい人の手紙に書いてあったと言うだけ。まだ確信はない。私はなんて曖昧な存在なんだろう。自分の名前さえ、自分ではっきりと分からないなんて……。何故か虚しい気分になる。
答えようとしない私を見て男の人は質問を変えた。
「親を知らないと言ったな。今、一人で暮らしているのか?」
「いいえ、教会に住まわせていただいています」
その人は少し考えるような素振りを見せてから、逆らうことは許さないといった断固とした口調で言った。
「後でお前を迎えに行く、教会で待っていろ」
「……っ!!」
驚きすぎて声も出なかった。私は口をぽかんと開けたままその人の顔を見上げる。
どうして急にそんな話に?やっぱりさっきイブの力を使ったのがばれたの?
だから手紙はあれほど他の人に力を知られないようにと言っていたの?
「……ど、どうしてですか……」
この人は危険だわ……。私は出来ればこの人の前から逃げ出したいと、気づけば足が無意識に一歩下がり、腰が引けた状態で尋ねていた。
男の人は表情を全く変えなかった。
「お前がグーテンベルクなら大変なことになる」
「……?」
私は言われたことの意味が分からなくて、何も言わずにその先を言ってくれるのを待つ姿勢でいた。するとその人は相変わらず無表情で、全く大変そうな素振りを見せないまま続けた。
「グーテンベルクは400年前に滅びた一族の名だ」