第一章 発見2
どんな一日の始まりにも太陽は昇る。
でも、その太陽が持つ意味が同じ日は一日だってない。
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『 ご親切にしていただいたのに、子供を置いたままここを出て行く私をお許しください。
私はある者に追われているのです。
このままここにいれば親切なあなたにもきっとご迷惑が及ぶでしょう。
ですから、私は行かなければなりません。
この子には他の子とは違う不思議な力が備わっています。
その力は成長すれば分かるようになるはずです。
しかし、できればこの子をここで、普通の子供として育ててほしいのです。
そしてその力が他の者には絶対に知られないように。
この子の持つ力は必ず不幸を招きます。絶対に、絶対に誰にも知られないように。
子供の名はサーシャといいます。サーシャ・ティアイエル・グーテンベルク。
しかし、もし、あなたが自分の孫として育ててくださるのであれば、この子にグーテンベ ルクという名を告げないでほしいのです。
そして私がこの子の本当の母親であるという事も。
私のことは死んだ、とお伝えください。
これが勝手なお願いであることは十分に承知しております。
しかし、こうする事がこの子にとって最も幸福な生き方であると信じています。
どうか、どうかサーシャをよろしくお願いします。 』
――――この手紙は……何……?
手紙を読み終えた私はその思いがけない内容に手紙を握り締めたまましばらく呆然としていた。
……どういうこと?
何がなんだか分からない。
私はその手紙が理解できるまで何度も繰り返し読み返した。
……これは、お母さんの置き手紙だわ……。
この手紙から私が分かる事はおばあちゃんは本当のおばあちゃんではなかったということだった。そしてお母さんはどこからか逃げてきて、この家に私を置いて行ってしまったということ。
今までのおばあちゃんの話は嘘だったの……。頭の中がすぅっと冷えていくような感覚があった。
ずっと私に優しくしてくれていたおばあちゃんと私は血が繋がっていない……。
じゃあ私の本当のお母さんは、誰?
私はこの家に置いていかれたの?
「イブ……」
風が舞う。
「ねえ、これってどういう事なの?不思議な力って……精霊の力の事よね?」
「そうよ」
イブは当然じゃないの、という顔をした。
「じゃあ、このグーテンベルクって何?私の名前はサーシャ・ティアイエルだって言われて今まで生きてきたのよ。グーテンベルクが私の本当の家名?」
「えぇ、おそらくそうよ」
「おそらくって!これも、はっきりとは言えない事なの!?」
私は動揺して思わず大きな声を出していた。声を荒げた私にイブは少し困ったように言った。
「その手紙があなたの本当の母親のもので、そこにあなたの名がグーテンベルクだと書いてあるならば、あなたはグーテンベルクだという事よ」
「そう……。つまり、はっきりとは言えないって事なのね」
要するにこれは重要な問題だということだった。イブが言葉を濁すのはいつも私の生まれに関わる事を聞いた時だったから。今までも肝心な事は教えてくれなかった。
おかあさんは私が生まれてすぐに死んだのではなかったの?
私を置いてどこに行ったの?
お父さんはいるの?
私の持つ力が必ず不幸を招くってどういうこと?
グーテンベルクが私の家名?
この手紙は本物……?
答えが見つからないまま夜が更けていく。
……おばあちゃん……、どうしてこんな時に側にいてくれないの……。これはどういう事なの?答えを教えてよ……。
また目頭が熱くなる。
頭の中では疑問ばかりが渦巻いて、爆発しそうだった。
朝方、ようやく眠りについた私は次の日もう一度冷静になって手紙を読み返した。
そして、結論を出した。この手紙はおそらく本物だろうと。
この家には私とおばあちゃんしか住んでいない。わざわざおばあちゃんがこんな嘘の手紙を書いておいて置くわけがない。
……それに……どっちにしても、もうこのままじゃいられない。
このまま、何も知らないまま、この手紙の内容に知らない振りをすることなんてできそうにはなかった。
……だって、自分の事だもの……。
私は今までずっと、疑問に目をつぶってきた。お母さんの事、精霊の力の事。私には知らない事が多すぎる。聞いてみても言葉を濁すおばあちゃんやイブにどこか不満を覚えながらも、今までは積極的に知ろうとしてこなかった。
けれど、自分の名前すら曖昧なまま、一生不満を抱えて生きていくのはもう嫌……。
そう、もしかしたらこれはいい機会なのかもしれない。
手紙が私に本当のこと知りなさいと言ってくれているような気がした。
心は決まった。とにかく調べてみよう。
町へ降りて、今、私ができる限りの事を……。
次の日、私は育った家に別れを告げて山を降りた。
ここまで来てようやく一人目の登場人物のフルネームが発覚。
ストーリーのメインになる人物は4人います。
まだ、これから3人も・・・・・・。