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第一章  発見1


運命は思わぬところで動き出す。

その行き着く先は運命自身も知らぬままに。




****************************




 一人きりの夜は静かで空っぽだった。

 私は戻った家におばあちゃんがいない事が信じられなかった。家の中を見回してみる。いつもおばあちゃんが座っていた椅子、使っていたブランケット……。今でもあらゆるところにおばあちゃんを感じられるのに。本人だけが、もういないなんて……。

 ……本当に、なんて静かな夜なんだろう。

 私はこんなに静かな夜があるなんて知らなかった。聞こえるのは風で木の葉が擦れる音だけ。こんな夜に限って鳥も動物の声も聞こえない。


 そう、私はなにも分かっていなかったのだ。一人ぼっちの本当の意味。おばあちゃんが心配していたことの意味を。

 もう心から私の心配をしてくれる人はいないんだ……。


「……うぅ……っ、おばあちゃん……」


 私は一人きりの家で、初めて涙を流した。



 昼はいつも通りに薬草を集める。しかし、泣きながら過ごす夜が溜まっていく。

 なぜだか涙が枯れることはなかった。泣き続けて目が腫れても、頭が痛くなっても、涙は止まらない。私の涙腺は壊れてしまったみたいだった。そんな私を心配してかイブはずっと黙って側にいてくれた。

 

 そしてそんな生活が一週間ほど続いた頃、私の目の前にイブとは別の精霊が現れた。

「ちょっと、あなたね、いい加減泣くのやめたら?このまましぼんでなくなっちゃうんじゃないの。ほんと、不細工な顔ね!見てられないわ」

 不機嫌そうに体の前で腕を組んで眉をしかめている。

 それは水の精霊、アクアだった。私が10歳の時に突然現れて、それから私の側にいる精霊。呼びもしないのに出てきたのはこれが初めてだった。言い方は悪いけど私を心配して出てきてくれたみたいだ。

「……アクア……」

 涙でぐしゃぐしゃの顔を向けるとアクアは少し表情を和らげた。

「いい?サーシャ、人間はいつか絶対死ぬのよ。あなたのおばあちゃんは十分に長く生きたじゃないの。何を悲しむ事があるの。このままあなだがずっと泣いてたらおばあちゃんは心残りで生まれ変わる事もできないわ」

 

 おばあちゃんはきっと今も私を心配してる――――。

 目をつぶるとおばあちゃんの心配そうな顔がまぶたにちらついた。私はアクアの言葉で目が覚めたような気がした。

 ……そう、そうよね。

「このままずっと泣いてるわけにはいかないのよね……」

「そうよ、このまま泣いててもあなたが一人だってことには変わりはないの。しっかりしなさい」

「……うん……。……ありがとう、アクア」

 そう言うとアクアはちょっとほっとしたような顔をして「そうよ。分かればいいのよ、分かれば。ほんとに世話のかかる子ね」と言ってさっと消えてしまった。

 ……きっと私がこんな状態じゃおばあちゃんは喜ばない。

「このままじゃ駄目よね……?」

 私がつぶやくと今まで何も言わなかったイブはにっこり笑った。


 次の日から私は泣くのをやめた。

 悲しくなくなったわけじゃない。虚しさが満たされたわけじゃない。でも私はもう十分に涙を流した。このまま悲しんでいてもどうしようもない。これからは一人ぼっちだ。ずっと泣いている事はできない。

 私はどうしたらいいんだろう。町に下りて暮らしたらいいの?でもこのまま山で一人でいるのもきっと良くない。おばあちゃんが心配していた通り、ずっと一人になってしまう……。


――――山を下りよう。

 しばらく考えて私はそう決心した。これからは町で暮らそう。町で何をすればいいのかはまだ分からないけど……とりあえずは教会に置いてもらって、そこから新しく始めよう……。


 

 山を降りる事を決めた私は、まず家の整理に取り掛かった。

 家にはそんなにたくさんの物があるわけじゃないけど。服とか生活に最低限必要な日用品、食器や台所用品に家具くらいだ。でもすべてを持っていくことはできない。特に家具は私一人だけではここから動かせない。それにどれもすごく古い。後で牧師さんに相談してみないと。

 そんな事を思いながらおばあちゃんの部屋の古いタンスを整理していた時だった。

 私はタンスの中に見たことのない小さな包みを見つけた。

それは大事そうにいつもは使われていなかった一番下の引き出しの奥にしまわれていた。

 ……何だろう?

 手にとって包みを広げてみると中からは鈍い光を放つ金のネックレスと古い一枚の紙が現れた。

 ネックレスは不思議な形をしていた。太陽の形をしたチャームの中に二つの星形の穴が開いている。おばあちゃんがこんなネックレスをしているのは見たことがない。

 そしてそれと一緒にしまわれていた色があせてしまった紙。

 これって……?

 何気なく広げてみるとそこには流れるような美しい筆跡の細かい文字が並んでいた。




――――それは、母からの手紙だった。



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