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第二章  安堵2


 怖かった。

 さっきまでの出来事がまだ現実感を伴っていなかった。地に足が着いていないような感覚が続いていた。

 助けに来てくれた……。

 ジェラルドの姿を見た時どれだけ安堵したか。言葉では言い表せない。

 それなのに、また彼の目の前で泣いてしまうなんて。我慢しようと思ったのに、優しい言葉をかけられた瞬間、今まで張り詰めていた緊張がとけてしまったのだ。

 ジェラルドは何も言わずに私が泣き止むまで側にいてくれた。その存在にどれほど助けられただろう。彼の側にいるだけで緊張していた数日前が嘘のようだった。

 気にするなと言われたけど、やっぱりジェラルドには迷惑をかけてばっかりだった。

 泣いてばかりいる自分が情けない。私はこんなにも弱かっただろうか。

 明るくて元気なのがサーシャじゃない……。

 町での自分を思い出して言い聞かせてみる。

 でも、それは何も知らなかった時の私だった。何も知らずに、ただ、平和でいられた時の。

 こんなに怖い目に遭った事なんてなかった。あのままジェラルドが助けに来てくれなかったらと思うとぞっとする。

 それを思い出してしまった私は、また体が震えだすのを必死に押さえ込んだ。

 ……もう、大丈夫なんだから……。

 唇を噛み締めてスカートをぎゅっと握りしめる。今はもう大丈夫。隣にはジェラルドがいる。

 ジェラルドは三人の男相手に全く怯まなかった。私は言葉を発することすらできなかったのに……。


 もう外は真っ暗だった。

 通りのほとんどの店は閉まっている。逆に、昼間閉まっていた店が開いていたりする。

狭い通りには所々にランプが灯っているだけだった。

 先ほどまではそう気にならなかったのに、今は柄の悪い男の人が多くなっていた。私はさっきの男の人たちに似ている人とすれ違うたびにびくびくしてしまっていた。

 歩いているのは狭い通りだった。すれ違うと男の人と肩が触れ合ってしまいそうになる。さっきまでは気にならなかったのに、今は嫌だった。

でも、ジェラルドが反対側を歩いているからあまりそっちに寄って避けることもできない。

 すると突然、肩に手を置かれた。

心臓が跳ね上がる。恐怖がよみがえり、自分の体がびくっと震えるのが分かった。ぎこちなく振り返るとジェラルドと眼が合った。

 彼はそのまま私の肩を抱き寄せるように引いて、私を前に押し出した。

「前を歩け」

「……ありがとう」

 気づかれないようにほっと息を漏らす。

 ……隣にはジェラルドしかいないじゃない。少し落ち着かないと。

 すると、今度は通りの真ん中を歩くような格好になった。両側を通る人の目が気になる。男の人たちが通り過ぎるたびにじろじろ見ていくのだ。なんだか不快な視線。

 暗くなってからは女の人を全く見かけないからこの時間に歩いている私が珍しいみたいだった。

 今は、宿までの道がすごく長く感じられた。


「サーシャ!あぁ、良かった!」

 宿の部屋の扉を開けるなり、泣き出しそうな表情のアイリスに飛びつかれた。

 私はその勢いにびっくりして、呆然としながらアイリスを受け止めた。

 でも、アイリスを抱きしめていると急に部屋に戻ってきたんだという実感が沸いてきた。体の力が抜けていく。アイリスはしばらくして少し離れると、私を覗き込むようにして言った。

「本当に無事でよかった。大丈夫?」

 それに何度も頷く。

「心配かけてごめんなさい。すぐにジェラルドが探しに来てくれたから、大丈夫よ」

 詳しく話してこれ以上心配かけたくはなかった。それに嘘を言っているわけじゃない。

 彼女はそれを聞いて安心したようだった。

「そう……。よかった……」

 アイリスはほっと息をついて、やっと私の体から手を離す。こんなにも心配してくれていたこと知って嬉しかった。私はアイリスに微笑んでみせた。心から笑うことができた。

 それから何も言わずに側で見ていたロレンスに向きを変える。

「サーシャ、悪かったね」

 彼も謝った。優しいグレーの瞳が気遣うような色を湛えている。

 みんなは悪くないのに……。

 そう思いながら唇を噛んで首を振るのが精一杯だった。込み上げる安心感でまた泣いてしまいそうだった。

 ロレンスは静かに近づいてきて優しく抱きしめてくれた。広い胸にそっと頬を預けて目を閉じる。すると静かに頭を撫でられた。

 同じ男の人でも全然違う。ロレンスには触れられても嫌じゃない。こんなにも安心する……。

「ありがとう」

 離れてからみんなに告げる。

 私にはもう、三人の存在が掛替えのないものになっていた。


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