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第二章  オルディア

 私たちはまず、宿を探すことになった。

 城壁の中に入るとそこには見渡す限り、店が所狭しと並んでいた。町全体が市場だった。

 城壁の近くではテントや簡素な作りの屋台で様々な物が売られている。城壁辺りで物を売っている人たちはみんな別の国から物を売りに来た人たちらしい。

町の人々が住んでいるのは中心地だそうで、家はすべて灰白色の壁に赤茶色の屋根で統一されていた。町の中心に行くにつれて、建物はどんどん背が高くなった。高いものは5,6階建てくらいはありそう。隙間なく建てられた家の一階はどこもお店になっている。狭い路地までせり出すように商品が並べられていた。

 同じ町でも全然違う。私は目を丸くした。整った印象を受けたエルンとは違い、ごみごみとして騒がしく、でも人の活気に溢れていた。

エルンでは町に豪華な馬車や貴族らしいドレスを着た人たちがいたけれど、そんな人は見当たらない。ここの人々は様々な服装をしていた。大陸中から人が集まっているのだ。旅人らしい人たちも多く見られた。

「サーシャ、ぼんやりしなで。はぐれると危ないわ」

「危ないの?」

 アイリスに声をかけられて、慌てて後を追う。

「えぇ、ここはあまり治安が良くない町なのよ。城壁はあるけど誰でも入れるでしょう?」

 確かに、さっき城壁を通る時は国境を越えたときみたいに身分の確認をされたりはしなかった。それに男の人たちはみんな腰に短剣をさしている。

「ここは商人の町で、男の町なのよ」

「男の町?」

 私は聞き返しながら、辺りを見回してみると男の人が圧倒的に多いことに気づいた。

「女の人はいないの?」

「遠くから商品を売りに来たり、仕入れに来たりするのが男ばかりだからよ。町の女の人たちは中心街から出ないんじゃないかしら」

「そうなの……」

 アイリスの言うとおりだった。こんなにもたくさんの人がいるのに旅の格好をした女の人はほとんど見かけない。それに、この辺りにいる女の人は町に住んでいる人だ。町の女の人は私の住んでいた町とあまり変わらない格好をしているからすぐに分かる。

「ここにしよう。空きがあるかを聞いてくる」

 ジェラルドが建物の前で立ち止まった。にぎやかな通りの裏のこの辺の家は一階にお店がなかった。そういう家には大体、宿の看板がかかっている。


 しばらくして、私たちは宿の3階に案内された。町の宿だから、大きな食堂などがついているのかと思ったら、泊まる部屋を貸してくれるだけだそうだ。

 でも、リビングに寝室二つがつながった大きな部屋だった。浴室もついているし、小さなキッチンもある。3階全体が一つの家のような造りで、そこを四人だけで使える。

 大人数や家族向けの宿なんだってロレンスが教えてくれた。ここの方が普通の宿に泊まってみんなが別々の部屋にいるよりも安全だからここにしたんだって。

「少し休んだら町を見てから食事に行こう。それまでに二人は着替えてくれ」

 ジェラルドは私とアイリスを見て言った。

「そうね。この格好じゃ目立つわね」

 町を見に行く。私はもう聞いただけでわくわくしてしまった。

「サーシャはどこでも楽しそうね」

 寝室の一つに入ると、荷物を置いたアイリスが私に呆れたように言った。

「だって、本当に楽しいもの。仕方ないじゃない」

 頬が緩んでしまうのを止められない。アイリスもここに来るのは初めてのはずなのに、こんなに落ち着いていられるのが信じられない。

 私たちは先にお風呂に入ってから、膝下までのワンピースとブラウスに着替えた。もちろん靴も変えた。この普通の格好をするのがなんだかすごく久しぶりのような気がした。足元が軽いせいで気分が浮き立つ。

 ……髪を編もうかな……。

 私は自分の髪を見て思いついた。山を歩く間はずっと、邪魔にならないように後ろで髪を一つに結んでいただけだった。今日はなんだか久しぶりにおしゃれしたい気分だ。

「私こんな格好初めてだわ。ねぇ、変じゃない?」

 アイリスの言葉に彼女を振り返る。ベージュのワンピースは胸元で皮の紐が交差して結べるようになっていて、腰から下はふんわりと広がっている。その下には長袖の白い麻のブラウス。

「すごく似合ってるわよ」

 不安そうなアイリスに にっこりして言う。彼女が魔術師だなんて絶対に誰も思わない。

「ねぇ、髪編んであげようか?」

 私はアイリスの流れるように真っ直ぐな髪を見て思った。

 うん、アイリスが髪を結んでいるのは見たことがないけど、きっと似合う。

「サーシャが?」

「ね、いいでしょう?私、ずっとおばあちゃんと二人だったし、こういうのしてみたかったの」

 それを聞くとアイリスは笑って、いいわよと言ってくれた。


 部屋を出ると、リビングでは着替えた二人がすっかりくつろいでいた。

 そのいつもとは違う様子に驚く。

 二人はまさに『寛いでいます』という格好だった。ジェラルドはソファーに深く座って両手を頭の後ろで組み、靴を脱いだ両足を伸ばしてテーブルの上に上げていたし、ロレンスもゆったりとソファーの背に体を預けて足を組んでいた。

 こんなふうに気を抜いた二人は見たことがなかった。今まで言わなかっただけで、本当はすごく疲れていたの?

 私は口が半開きのままアイリスを見ると彼女は二人の方を向いて眉をひそめていた。そして私の視線に気づくと、こっちを向いて肩をすくめてみせた。

 私たちが見合わせていた顔を二人の方に戻すと、ロレンスはいつものように姿勢を正していた。顔だけをこっちに向けて何事もなかったかのように言う。

「終わった?」

「えぇ」

 アイリスが答えた。私たちは並んで部屋の扉の前に立ったまま、二人とは微妙な距離を保っていた。

 なんだか、変な空気だ。ジェラルドも私たちのほうを向いてはいる。でも足は相変わらずテーブルに乗ったまま。

 お行儀が悪い……。

 私はおばあちゃんみたいな事を思ったけど、それをジェラルドには言えそうになかった。

 ロレンスがふっと笑った。

「髪も結ったんだね……。二人とも似合ってるよ」

 それを聞いて、私は二人が待ちくたびれたのかもしれないと気づいた。ソファーに歩み寄りながら告げる。

「待たせちゃった?ごめんなさい」

「いいや」

 ロレンスは優しく笑って答えてくれた。でも、絶対に嘘だ。だって、そうじゃないと二人揃ってあんな格好にはならない。

 私とアイリスはあの後、舞踏会のドレスや髪型の話や町の服装や髪型などをお互いに教えあったりして話が弾んでいたのだ。

「気にしなくていいのよ、サーシャ。男は待つものなんだから」

 アイリスも近づいてきてそのままソファーに腰を下ろした。当然だという顔をしている。アイリスってこういう時は本当にお嬢様なんだなって思う。

 ジェラルドはアイリスが側に座ってもまだ足を上げたままだった。私はどうしてもそれが気になって仕方がなかった。

 ……大きな足……。

「そうだよ。お嬢さん方、何か飲む?」

 ロレンスもアイリスに同意を示した。二人は全然違うようでやっぱりどこか似ているのだ。

「私はいいわ。先に町を見るんでしょう?」

「町を見るのは明日でもいい。別に急がない」

 今まで黙っていたジェラルドが答えた。

「私はいいわよ。サーシャは?」

「私も大丈夫よ」

 そうアイリスに答えて、何気なく顔を戻すとジェラルドと目が合った。彼は特に表情を変えずに、私から視線を外す。伸ばしていた足を下ろし、靴を履くと立ち上がった。

「行くか」


☆どうでもいい後書き☆


初めてカタカナ&架空の町の名前がそのままサブタイトルに。

色々な意味で重要な町です。

イメージはイスラム世界のスーク(常設市場)。




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