第二章 涙
宿で夕食を終えた後、私は一人暗い外に出た。
4人が泊まればいっぱいになってしまう小さな宿。その一階の食堂に全員でいると、どうしてもジェラルドの視線が気になるのだ。
彼は私に力があると疑っている。出会った時に聞かれて以来、その事については一度も聞かれていないけど、今でもきっと疑っている事に変わりはないはずだった。
再び目の前で使ってしまったイブの力。彼は何か気づいただろうか。
狭い食堂に一緒に居づらくて、私は外に逃げてきたのだ。
あの、すべてを見透かすような鋭い視線が苦手だった。他の二人と同じように、打ち解けて話ができたらいいなと思っている。でも、眼が合うと後ろめたい気持ちになってしまう。そして、上手く話せなくなる。
彼の考えていることが分からないから?
それとも、疑われていると知っているから?
私には、自分が彼の前で上手く振舞えない理由が分からなかった。
でも、この力を打ち明ける事には抵抗がある。
……不幸を招く力……。
ため息をついて空を見上げる。曇っていて星が見えない。それに、空気も少し重いようだった。
……明日はきっと雨だわ。
私はそのまま目を閉じて、しばらく風を感じていた。
「何をしている」
いきなり響いた声にびくっと体が反応した。振り向くと宿の外にジェラルドが立っていた。
「なにも……、少し、外の空気が吸いたくて」
近づいてくる彼に告げる。近づいてきたことで、暗くてよく見えなかった顔が見えるようになった。その顔は怒っていた。
どうして……。
「暗い中、一人で外をうろうろするなと前にも言ったはずだ」
いつもより低い、空気を切り裂くように真っ直ぐ響く声。それを聞いた私は絶望的な気分になった。
……ジェラルドは私のことが嫌いなんだ。
何かが胸に込み上げてくるのと同時に、私は唐突に思いついた。それに気付いたとき、今までの彼の態度のすべてに説明がつく気がした。
だって、ジェラルドは私には笑ってくれない……。
そうだった。アイリスやロレンスと話している時は表情を和らげるのに、私と話す時はいつも硬い表情か怒ったような顔ばかり。それに、私は今まで彼に面倒をかけてばかりだ。
「聞いてるのか」
彼はもう一度言った。
それを聞いたとたん、突然、涙が込み上げてきた。目が潤みだしたと思ったときにはもう涙が溢れ出していた。止める暇もなかった。
いやだ、ここで泣いたらもっと嫌がられてしまう……。
これにはジェラルドもさすがに驚いたようだった。
「おい……」
「…ごっ、ごめんなさい……っ」
なんとかしぼり出した声は震えていた。でも、これ以上、涙を見せたくはなかった。とっさに手で目元を拭う。慌てたように近づいて来ようとする彼から後ずさり、気が付けば私は宿に向かって走り出していた。
部屋に戻ると、そのまま泣きながらベッドにうつぶせに倒れ込んだ。
あぁ、なんてひどい事をしたんだろう……。
驚いたに違いない。泣くつもりなんてなかったのに。突然泣くなんて卑怯なんだろう。これでもう、本当に嫌われてしまう―――。
自分でも何が悲しくて涙が出るのか分からない。頭の中はぐちゃぐちゃだった。
私はそのまま気持ちが落ち着くまで泣き続けた。
落ち着いてみれば、ジェラルドの目の前で泣いてしまったという後悔と、逃げるように部屋に戻ってきた事への後悔だけが残り、私はもう、このままベッドに沈んで消えてしまいたいと思った。