第一章 日常の終わり1
太陽が昇る。
どんな一日でも、一日の始まりには、いつもと同じように太陽が昇る。
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「おはよう、イブ。今日もいい天気ね!」
朝、起きたらすぐに外に出てイブにも朝のあいさつ。これが私の習慣だった。
「おはよう、今日は町に行くんでしょう?」イブが聞いてきた。「今日は暑くなりそうよ。」
私はそれにうなずく。
今日はやっと乾燥が終わった初夏の新しい薬草を持って町に下りる日だった。
「じゃあ急がないと!本当に暑くなる前に山を下りたいわ」
降り注ぐ陽射しの中、私は水を汲んで家に戻った。大急ぎで朝食と朝の仕事を終えると「そんなに急がなくても」と呆れるおばあちゃんを横目に、慌てて準備をした。
「だって、今日は暑くなるって!」
私はそう言いながら昨日小さな袋に分けてあった薬草を慎重にかばんに詰め込んだ。
「サーシャ、そんなに慌てて街で大声でイブと話さないように気を付けるのよ」
慌てる私の横でおばあちゃんは優雅にお茶を飲みながら言う。
……ちょっとは手伝ってくれたっていいじゃない。
「そんなことしないわ!」
私はもう、おばあちゃんの次の言葉を予想できるくらい何度も聞いていた。
「「イブのこと、誰にも知られないように」でしょ。分かってるわ、大丈夫よ」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
「でも、本当に気をつけて。あと教会に寄るのを忘れないでね」
真剣な表情でおばあちゃんはもう一度そう言った。
「うん、分かってる。行ってきます!」
私は返事と共にしっかりうなずいて外に出る。
緑が生い茂る木々の間からは雲一つない青空が覗いている。高い太陽。
思わずため息をついてしまう。
……ああ、本当になんて綺麗に晴れた日なんだろう。
私は戸口に立つおばあちゃんに手を振り、町に向かって山道を歩き出した。
山を降りるとすぐに教会の裏に出る。
古い教会は町から少し離れた丘の上に町を見下ろすように立っていた。
教会の横を通りかかる時、木々の間から牧師さんが正面に広がる庭に水をやっているのが見えた。
「おはようございます!」
私が教会の横に出て大声であいさつすると牧師さんは手を止めてこっちに向かって声を上げた。
「おはよう、サーシャ。久しぶりだね。今日は薬草を売りに?」
私は庭に近寄りながら答えた。
「はい。夏の薬草が取れましたので」
牧師さんは私とおばあちゃんが山で二人きりで住んでいるのを何かと心配してくれて時々様子を見に来てくれたりなんかもする。親切で穏やかな牧師さんは町の人からの信頼も厚い。
私は牧師さんに日頃のお礼を言ってから薬草を少し渡してその場を後にした。