第二章 旅立ちの朝
第二章:旅【前編】
真実に出会うまでの物語。
あいにくの曇り空。
少し日差しが弱いけど、まあ外を歩くのにはこれくらいのほうがちょうどいいのかもしれない。
起きてすぐにカーテンを開けて天気を確認した私は一瞬がっかりしたものの、前向きに考えることにした。
すぐにリビングに出て洗面所に向かう。顔を洗って部屋に戻り、着替えを済ませてまたリビングに戻ったけどジェラルドが来た様子はない。
早くに目が覚めすぎたのかな。
ううん、この時計っていう機械は6を指してるし……。
この時計の見方はアイリスに教えてもらったのだ。私は今まで時計を知らなかった。
とりあえずはリビングのテーブルにあった朝食に手をつけることにした。
これっていつも通り私の分よね?一人分しか置いてないし……。
そう思いながら自分の着ている服を見下ろす。今日の服はアイリスと一緒に用意をした旅人が着ている服だった。
いつものような膝下のワンピースにブラウスじゃない。ズボンを履いたのは生まれて初めて。深い緑色のズボンに茶色の短いブーツ、上の服は白っぽいグレーでお尻の下くらいまでの長さ。ブーツと同じ茶のベルトには小さな袋が二つぶら下がっている。一つには家から持ってきたお金とおばあちゃんのタンスで見つけたネックレスに手紙、そしてもう一つには薬草。
隣に置いた、少し大きめで肩にもかけられる袋にはフードのついた黒いローブと水、少しの食料などが入っていた。
長い旅に出るわりには軽装なのにはアイリスとジェラルドが魔法を使えるからという理由があった。
魔法はすごく便利で、自分の契約した空間をすぐに手元に呼び出すことができるらしい。アイリスのおかげで、私の着替えや他の荷物もそこに置いてもらっているのだ。
でも4人が全員手ぶらだと魔法が使えますと宣言しているようなものなので、普通の旅人には怪しすぎる。そこでそれぞれが一つは荷物を持つことになったのだ。
ちょうど食事を終えた頃、ジェラルドがリビングにやって来た。彼もいつもの軍服とは違って黒のズボンに黒の短いブーツ、紺色の長袖のシャツという楽な格好だった。大きな荷物を持って腰にはいつもはない短剣が下げられている。
彼は私を見て心なしか安堵したように言った。
「食べ終わってるな。準備は?」
「はい、できています」
敬語はなしだって言われたけど、いきなりこの人に普通に話すなんて無理だと思う。
「よし、行くぞ。遅くなってすまない」
ぎりぎりまで忙しかったのかな。
それだけ言うとちらっと私を見てすぐに部屋を出て行こうとする彼を慌てて追いかけた。
「おはよう、サーシャ。よく眠れた?」
「うん。おはよう」
お城の外にはすでにアイリスとロレンスが待っていた。二人の姿を見ると急に実感が沸いてきて笑みがこぼれてしまう。
本当に今日から始まるんだ。
アイリスは私と同じような格好だった。上に着ている深い石榴色のローブが赤茶の髪とよく合っている。ロレンスもジェラルドと同じような格好だけど、腰にはジェラルドよりもずっと長い剣。
それを見てから私は二人の横で静かに立っている三頭の馬に眼を留めた。
嘘、馬で行くの?そんな事聞いてない……。
頭の中であまり快適ではなかった前回の旅が思い出された。
「馬に乗って行くの?」
一番話しやすいアイリスにそれとなく聞いてみる。するとアイリスはジェラルドの方を見た。
「そうなの?」
「ああ、国内なら馬に乗っても大丈夫だ。国を出たら徒歩だ」
「そうなんだって」
彼女は肩をすくめて私に返す。
これを聞く限りアイリスも今まで知らなかったみたいだ。
そっか、国内だけ……。
馬は貴族か軍人の乗り物なのだ。普通の旅人が乗っていたらおかしい。
「出発する」
ジェラルドはそう言うと黒い馬にさっとまたがった。
え、待って、私は乗れないのに?
焦る私の目の前でアイリスもロレンスも当然のように馬に乗った。
アイリスも乗れるの……。
軍の魔術師とは知っているけど、見た目はそうは見えないから驚いてしまう。
すると黒い馬が近づいてきた。
「掴まれ」
「あ、ありがとうございます」
目の前に無表情なままのジェラルドの手が差し出された。恐る恐る手を伸ばすとそのままものすごい力で引っ張り上げられる。そして私が落ちないように腕がしっかりと腰に回された。前の時みたいに。
ああ、どうしよう。まさか、また馬だなんて。気まずい……。
「行くぞ」
動揺を隠せない私なんかを気にも止めず、三頭の馬はいななきと共に一斉に走り出した。