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第一章  家:ロレンス

 

見えているものといないもの。

きっと人は初めからすべてを持っている。

ただ、その意味が見えていないだけ。



****************************



 ジェラルドは短い話を終えるとすぐに出て行った。

 相変わらず忙しい男だ。

 彼は貴族の生まれではないため騎士ではない。騎士団では必ずしも実力と階級は一致しないが、軍人は完全な実力主義だった。あの男は自分の実力だけでわずか28歳で中佐にまで上り詰めたのだ。

 私より2歳上で階級も上官だが、任務の時以外は誰とでもごく普通に公平な態度で接する。相手がどんなに名の知れた家の貴族だろうが大げさに敬ったり卑屈になることはなかった。

 初めの頃は向こうが上官であり年齢も上だと知ったせいで、任務以外でも敬語を使っていたのだが、逆に畏まったしゃべり方をするなと言われた。それ以来、私も普通に接する事にしたのだ。

 王とは何か特別な関係があるらしく、今回のように個人的な任務で城を離れて行動していることも少なくないようだった。

 私はいつも、家に縛られずに自由に行動できるあの男を羨ましく思っていた。その剣と魔法の力と確かな行動力で彼は誰からも一目置かれている。


 家の説得か……。

思わず、ため息をついた。面倒な事になりそうだった。

 ディアスという名。

ここ数年、会うたびに父からは結婚を迫られるようになっていた。好きでもない女との結婚。子を儲け、家を繋げて行くためだけの。

 私はずっと父の言葉に従って生きてきた。与えられるものだけを受け取り、騎士になる事が当然のことだと信じて疑った事はなかった。

 それが、18の時、初めて家を遠く離れて生活し、この世界には騎士として以外の生き方があるという事を知ったのだ。様々な人間がいることを知り、疑問が芽生えた。

 私はこのまま家のためだけに生きて行くのか、と。

その思いは、年々強くなる一方だった。結婚を迫られるようになってからはなお更に。


 ジェラルドは鋭い男だ。私の葛藤に気づいていて、わざわざこの話を持ってきてくれたに違いなかった。あの男がそれを肯定する事は絶対にないだろうが。

 彼には男として全く敵わない……。


 しかし、そのさりげなさを嬉しく思った。

家を離れて大陸中を旅することができる。こんな機会はもう二度とないだろう。

必ず、父を説得しなければ。

私は決意と共に家に戻る準備を始めた。



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