第一章 騎士:ジェラルド
対照的な二人だからこそ、分かり合えることもある。
変わらないものに、感謝を。
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「キーナンだが。今、少しいいか」
「ああ、入ってくれ」
扉の向こうから返事があったのを聞いて、俺は部屋の中に入った。
「久しぶりだな。どうした」
紅茶を飲みながらくつろいでいたらしい騎士が立ち上がる。
ロレンス・アルベルト・サファヴィー・ディアス。
それがこの男の名だった。一度では覚えられない長い名前。この名がきっかけで、親しく付き合うようになったのだ。
濃いグレーの瞳に暗めのブロンド、その甘めの端正な顔立ちと優雅な物腰に惹かれない女はいないだろう。この男と俺は生まれから何からすべてが正反対だ。だが、何故か馬が合った。戦場で知り合って以来、暇な時には何かと行き来している。
「座ったらどうだ」
ロレンスはソファに腰を下ろしながら向かい側を指して言った。
「それで、今日は何の話だ?」
「ああ、実は王からある命を受けた。約一年間城を離れることになる」
俺は座ると同時に話を切り出した。
「それはまた、今回はやけに長いな」
ロレンスは訝しげに言う。この男は俺が何度か王の命で非公式な任務のために城を空けているのを知っている数少ないうちの一人だった。
「大陸中を回ることになりそうだ。それで同行してくれるものを探しているんだが、ロレンス、お前に頼みたいと思っている。任務の予定はどうなってる?」
「私に?私が行っても構わないのか?」
「ああ。王の許可は下りる」
「そうか……。任務は特に問題ないな。騎士団だ。戦争でも始まらない限り大きな仕事はないよ」
「家のほうはどうだ?」
俺は懸念していた点を聞いた。この男は代々続く由緒ある騎士の旧家、ディアス家の長男だ。俺のように自由には動けない。
案の定、ロレンスは思いっきり顔をしかめた。
「ちょうどそれを考えていたところだよ」
苦笑いしながらそう言うとしばらく沈黙した。
「いや、しかし家を一年も離れられるなんてこんな機会はもう二度とない。ぜひ行きたい。……家には、なんとか話をつけよう」
「この旅は非公式だぞ」
ロレンスはまた少し考えて言った。
「構わないよ、ジェラルド。本当に滅多にない、いい機会だ。同行したい」
「お前が家を説得できるならば、歓迎するが」
「ああ、なんとかするさ」
言ってから、にやっと笑った。
この男がそう言ったのだ。決まりだろう。
「詳しい話はお前の出発が確定してからだ」
「ああ、分かった」
頷いた男を見て俺は話を変えた。
「あと、魔術師を一人同行させたいと思っている。出来れば治癒がいいんだが、誰か知り合いはいないか?」
「リトリアか?」
それは治癒の魔術師を多く輩出している旧家の名前だった。これも代々続く名門の貴族だ。同じ貴族同士、ディアス家とも交流があるのだろう。
「いいや、別に誰でも。力があれば構わない。」
「リトリア家の者で構わないなら知っているんだが……、ルイスとカルロは無理だな。一番下ならいけるかもしれないが……」
ロレンスが迷うように言った。
そうだ。確か、女だったか……?錆び付きかけていた記憶を探る。俺は魔術師とはほとんど交流がない。
女か。今まで特に考えなかったが、パーティーの中に他にも女がいた方があの娘にとってはいいだろう。
「いや、女のほうがいいな。」
ロレンスに告げると驚いたような顔をした。
「そうなのか?」
「ああ、女のほうが都合がいい。その魔術師、名はなんだったか?」
「アイリスだ。アイリス・ヴィシュー・リトリア」
一緒に旅をする三人目の人物が登場です。
ロレンス・アルベルト・サファヴィー・ディアス。
長いですね……。貴族出身の騎士です。
あともう一人登場したらまた登場人物紹介を書きたいと思います。