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第一章  娘1:ジェラルド

過去を知ったとき、その瞳は何を思ったか。

どんな未来を見つめていたのか。



****************************



 やはり子供のような娘だった。

 俺を警戒してぎこちないかと思えば次の瞬間には屈託なく笑う。

あの、魔法を見たときの驚いた顔。年頃の娘があんな顔をするとは思わなかった。

気づけば、思わず笑ってしまっていた。


 あの後、部屋を出てから王立図書館でグーテンベルク一族に関する本をかき集めた。

どの歴史書にもグーテンベルクについての記述は見られる。だが、どれも大体同じような内容しか書かれていなかった。どれを見ても、400年前に滅びたという記述でグーテンベルクの歴史は終わっている。それ以後の事は分からないままだ。

俺はなるべく詳しく書かれた本を選び、娘に持っていくことにした。彼女の処遇が決まるまでは部屋から出せない。本を読む時間は十分にあるだろう。

 


 部屋で夕食をとっている間、俺は密かに向かいに座る娘を観察していた。

 静かに食事をしている娘。無事、風呂に入ったらしい彼女はさっぱりした様子だった。

ゆるく波打つ長い髪は昼間よりもその輝きを増している。柔らかそうな胡桃色の髪に透き通るような白い肌。小さな顔に寸分の狂いもなく収められた大きなすみれ色の瞳と繊細な鼻筋、鮮やかな薄紅色の唇。やはり、改めて見ても美しい娘だった。その顔はまるで女神の彫刻のようで、どこか高貴な雰囲気さえも感じられる。

 いや、黙っていれば、だな。俺は内心苦笑しその考えを改めた。

外見と比べると言動や態度があまりにも幼い。そのため、どちらかと言えば美しいよりも可愛らしいと言った方があてはまるか……。


 夕飯を終えた後、持ってきた歴史書を出しテーブルに積み上げた。

 2,30冊ほどの本を目の前にした娘は目を輝かせる。

 それから俺は王から借りた歴史書を彼女に手渡した。これを見れば彼女も自分がグーテンベルクの生き残りだと確信できるだろうと考えたのだ。

「これを見てみろ」

 開いたページにはあの肖像画が載っている。彼女は不思議そうに首をかしげて受け取るとその絵を見つめてつぶやいた。

「まぁ……、綺麗な人……」

「お前にそっくりだぞ」

「……えっ?」

 娘は驚いたように大きな紫の瞳をこちらに向ける。

「お前は鏡も見た事がないのか」

 まさか、気づかなかったわけじゃないだろう。

 俺が呆れて言って返すと、それを聞いた娘は少し考えるように視線を下に落とした後、普通の表情で頷いた。

「鏡は家にありませんでしたから」

 ……まさか。

「本当に自分の顔を見た事がないのか」

「いいえ。湖で姿は映せます」

 彼女は真面目な顔でとんでもない答えを返した。俺は思わず眉をひそめた。鏡はそれほど高価ではないはずだったが。それにこの娘はそれほど貧しい暮らしをしていたようには見えない……。

 そこまで考えて、昼間、彼女に鏡台の使い方を説明していなかった事に思いが至った。

 どうも、この娘といると調子が狂う。

 俺は浅くため息をついて立ち上がった。そのまま浴室へ向かい、洗面台の前の鏡台を開いて立てかけてある鏡を取り出す。

 そしてそれを手に持って、再び娘の前に戻った。

「わぁ、大きな鏡!」

「顔だ。顔をよく見てみろ。お前にそっくりのはずだ」

「…………」

 感嘆の声を上げた表情から一転、目の前に突き出された鏡を真剣な表情で覗き込み、自分と肖像画を見比べた娘は、しばらくすると硬い表情のまま首を振った。

「こっちの人の方が、私よりもずっと綺麗です」

 ……とぼけた娘だ。

 同意を求めた俺が間違いだったのか……。


「……とにかく、お前がグーテンベルクであることは間違いないと思う。ここに置いた本はすべてグーテンベルクについての記述がある歴史書だ。とりあえず内容が濃いと思われるものを選んで持ってきた。もし、もっと必要であれば用意しよう」

「あ、ありがとうございます」

「他に何か必要なものは?」

「いいえ。特に……」

 そう答え、目を伏せた娘を見て俺は立ち上がった。

 

 グーテンベルク一族。不思議な力を使うとされた一族の生き残りの娘。

 この歴史書から、彼女は何を思うのだろうか。

 

 未来はまだ、予想も出来なかった。




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