きっとわたしはなんでもできる
はっとして、彼女はまた目蓋を限界までこじ開けた。
授業が開始して間もなく、眠りへと引き込まれていった。
椅子は浅くかけ、手は互いに皮膚をつねり上げる。
赤くなった表面に、まだ足りないとペンの先を押し付ける。
彼女が気付かないうちに、手の皮はどんどんと傷つき、突き抜けて、血を滲ませる。
異変を待ち構えていた生徒達は、ソレキタ、と小さく手を打ち、彼女にだけ聞こえるように揶揄の言葉を掛けていく。
全ては耳に届いている。心にも届いている。
教師が怪訝な顔をして、いつ注意をするかタイミングをはかっていることだって、彼女にはもうお見通しなのだ。
頭が、肩が、背中が、腕が、手が、足が。
全てが重くて、もはや自傷行為もままならない。
時折目は覚めるのに、数分後には夢の世界で恐ろしいものを沢山見る。
冷や汗が噴き出す。頭がくらくらする。悪戯でいきなり耳元で大声をあげられると、体がビクリと大きく痙攣して、苦しいくらいに動悸が早くなる。
息切れをする。視界が収縮する。脳みそはきっと半分潰れている。
そんな彼女の様子が楽しくて、あいつらは笑う。同情する。
わざと子守歌を歌う奴なんか、殺したくなる。
起立、と号令が聞こえて反射的に立ち上がった。
椅子が一斉に引く音がした。礼、と声が聞こえた。
頭を下げて、体がふらりと傾きそうになるのを堪えて、ようやくまた椅子に座った。
同時にチャイムが鳴った。
ほんと、授業が終わったら起きるよな。
そんな声が聞こえた。
時計を見た。
今から休憩は十分間。
下校時刻まであと六時間。
急にはっきりした視界に、沢山の笑顔が見えた。
無邪気な笑顔で、昨日見た番組の話をしている。
がやがやと、色んな話題が溢れる。揶揄の声は聞こえない。
生徒は自分のことにかかりきりだ。
そこには色鮮やかな世界がある。
なんでか笑いそうになって、慌てて口を押さえた。
頭が、肩が、背中が、腕が、手が、足が。
全てが軽くて、もはや保健室など用済みだ。
きっと今の瞬間なら何だってできる。
真っ赤な痕がいくつもついた手は、撫でればしみるようにヒリヒリと痛んだ。
赤いポツポツした痕は発疹のように見えた。
時計を見た。
今から休憩は十分間。
下校時刻まであと六時間。
次の号令は、十分後。
これはフィクションです。