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弥咲なにをしてる?part2でしょうか。

「はぁ……あ……」


私はさっきから溜息ばっかり……今日は色々なことがあって、本当なら泣いて喜んでもいいくらいなことだったのに。

ずっと昔から大好きだった小説家の『舷斗』に会えた。

今まで謎の人で、なかなか世間に顔を出したりしない人なのに……その人と……会えたのに……。


まさか……それがあの男だったなんて!!

あの、わけわかんない、しかも女の人にダラしなさそうなあんな人が『舷斗』だったなんてぇぇぇぇ~~~~!!


私……今までどれだけ失礼なこと言ったかな?

そういえば、何発も頭を殴った気もするし、変質者扱いだってしたし……ああ~~もう立ち直れない。

しかも……トドメは彼に私は……現実世界の人としても見てもらえてなかったなんてーーー!!


ああ……彼のこと知りたいなんて思わなければよかった……。





「ママ~~弥咲さん、今日はダメみたいよぉ~~」


お店の女の子に呼ばれ、スナックのママ、智捺がテーブル席を覗きに行くと、女の子の膝の上にうずくまるように頭を乗せているのは……。


「大丈夫ですか、弥咲さん? どうかなさったんですか?」

「………自分の人生の中で、ワーストベスト3に入るくらいの出来事が……」

「……あら、本当みたいですね。その落ち込み方」

「…………」



「じゃあ、ママお先に! 弥咲さんまたね」


フルフル……テーブル席の長椅子に横になりながら手を振る。

すでに閉店時間を大分過ぎ、お店の女の子達はみんな帰って、店に残っているのは弥咲とママの智捺だけ。


「帰れますか?」


フルフル……横になったまま首だけ振る。


「まったく……なにがあったか知りませんけど、いい加減立ち直って下さいません?」


誰がなにを聞いてもなにも話さないので、みんなお手上げ状態だった。


「……膝…貸して………」


ボソリと呟いた。


「あらあら、またですか?」


いつもの、弥咲のおねだりだ。


「ちょっとだけですよ」

「うん……」


仕方なく弥咲の頭の横に腰を下ろすと、弥咲が顔を上げもせず着物姿の智捺の膝に重たそうに頭を乗せる。


「……この着物って、智捺さん自分で着るの?」

「はい、そうですけど? この仕事してれば必要に迫られることですから。なんでです?」

「だったらここで脱いでも、また着れるんだよね?」

「!!」


今度はじっと膝の上から、智捺の顔を見上げている。


「それは?」

「オレに抱かれて……」

「ここで? ですか?」

「うん…」

「それは誰かの代わりでしょうか?」

「違うよ。オレはそののことを抱きたいとは思ってない。まあ、いつか偶然にキスくらいできたらいいなぁ…とは思ってるけど」

「あら、随分消極的なんですね。偶然にキスなんてできる状況なんて、なかなかありませんよ」

「オレその娘には嫌われたくないから……抱くなんて夢のまた夢だから……」

「あら?私には嫌われても構わないんですか?」

「智捺さんは大人の女性だと思ってるから」

「その娘のことがそんなに大事なんですか?」

「大事? んー憧れ? んんーとにかくその娘の代わりに智捺さんを抱くわけじゃないよ」

「今夜で私が弥咲さんのことを、好きになってしまうかもしれませんよ。それでもいいんですか?」

「………それは、ないでしょ?」

「どうしてですか? わかりませんよ? ふふ」

「だって、智捺さんはオレのことなんてお客のひとりで、手の掛かる子供だな~ぐらいにしか思ってないでしょ?」

「素敵な男性だと思ってますよ。弥咲さんの書く小説も好きですし、そんな人の恋人になれるんだったらいいなと思いますよ」

「商売上手だな。褒め上手なのか?」

「もう……少しくらい素直に受け取ったらどうですか?」

「今までの感謝の気持ちも込めますから」

「…………」

「智捺さんに言い寄ってくれる殿方を追い出したりしませんから。お互い持ちつ持たれつな関係だと思ってるんだけどな。智捺さんが人肌恋しいとき、傍にいたつもりだけど」

「まったく……貴方って人は……これだから恋愛小説家なんて変に勘が鋭くて。それとも弥咲さんだからですかね」

「今夜は最大級の人肌恋しい心境なんですっ!!」


ガバリと起き上がって、智捺に向かい合う。


「姿勢を正して、正座までしないで下さいよ。もう…」

「今夜は……オレを癒して、智捺さん。このままじゃオレ、地面にめり込みそう……」


言い終わると同時にグッタリと、また智捺の膝に倒れこむ。

智捺の膝に仰向けで頭を乗せて、両手で額と目を隠しながら無言の懇願する。


「そんなに辛いなら、ちゃんとその娘にお話なさったらどうです?」


片平と同じことを、また言われた。


「ダメ……今は無理……」

「じゃあ、いっそのこと諦めたらいかがですか?」

「はぁ~もっと無理……」


息を吐いて、ボソリと呟く。


「もう……仕方ありませんね」


目を瞑って、諦めたように溜め息をついた。


「じゃあ、帯外すのを手伝ってもらえますか?」

「……ありがと……智捺さん」


弱々しく微笑むと、静かに弥咲を見つめる智捺にそっと手を伸ばした。




小夜子さんのことを、大事にしたいとは思ってる。

傷付けたくもない。

ただ、片平さんが言うには、オレの愛情表現は少しズレてるらしい。


いつかオレが『舷斗』だとバレると、覚悟していた日があっさりやって来て、案の定そのことを知った小夜子さんは、オレとの間に距離を置いた。


もう小夜子さんにオレは『舷斗』としか映ってないんだろうな……。


次に小夜子さんと会えたら、小夜子さんはオレと話しをしてくれるんだろうか?




「やあ!」

「あ……」


週末の図書室にいつもより遅い時間に訪れたのに、すでに先客がいた。


「今日は来ないのかと思った」

「…………」


私はなにも言えなくて、無言。

だって本当は彼に会いたくなかったから。

遅い時間に来て、道場にも寄らずここに来たのに……。

本当は学校に行くのも止めようかと思ったけど、行きたくない半面、もしかして彼に会えるかもしれない……なんて矛盾した気持ちもあった。


「ちゃんと話そうと思ってさ」

「驚きましたけど、私はもう別に……」

「オレが『舷斗』でガッカリした?」

「えっ!? えっと……」


しまった。

会えたときの対応を考えてなかった。


「くすっ。相変わらず真面目だね、小夜子さんは」

「でもだからって、貴方の小説が嫌いになったワケじゃないし、本当に新作楽しみにしてるし……」

「ありがとう」

「いえ…」


ああ、今私の目の前に『舷斗』がいるんだ。

あんなに憧れてた『舷斗』が……。

色んなこと差し引いて目を潰れば、私って幸せなんだよね。


「小夜子さんとここでこうやって会えるのも、今日が最後だよ」

「え?」

「仕事の方でストップかかっちゃったから……」

「やっぱり空手のコーチはダメって言われたんですか?」

「うん、もともと我が儘言わせてもらってたしね。小夜子さんの言うとおり、稼げるときに稼いどかないと」


ニッコリ笑顔で言われた!


「ス…スイマセン……」


思わず謝ってしまう。


「あ! いや、そういう意味で言ったんじゃ……」


どうも彼は一言多いと思う。

じゃあ、どんな意味で言ったのかと聞いてみたくなる。


「あのさ……小夜子さん」

「はい?」

「今回のことに懲りずにさ……オレと友達でいて。知り合いより親しい友達……」

「………」


困ったような……懇願するような眼差しと顔で窺うように聞いてくる。


「ダメ?」

「……やっと生きてる人間扱いして頂けるんですね」

「小夜子さん、意地悪だな……」

「なに落ち込んでるんですか?」


落ち込んでるのはこっちですから!


「構いませんよ、友達にならなっても」

「本当? やった! ありがとう! 小夜子さん!!」

「別にそのくらい……」

「じゃあ早速ご招待するよ。冬休みウチに遊びに来て! そしたらオレきっと仕事はかどる!」

「え? なんでですか?」

「オレすぐ人恋しくなっちゃうんだよね。だから小夜子さんが来てくれたら、きっと大丈夫だから」

「気が向いたら……でいいですか?」

「え? う~~ん、仕方ないか。はい、じゃあコレ♪」

「は?」

「オレんちのカギ。あげる」

「え?」

「いつでも来て」

「………」


自分の掌に乗った銀色のカギを見つめてしまった。


「あ! やっぱり来る前に連絡くれた方がいいかな? そしたら必ず家にいるようにする」

「いえ、そんなにお気遣いなさらずに……」

「そしたら、女の子のところに泊まらなくて済むし」

「は?」

「ん?」


また貴方は一言多い……。


「そんなに女の人のところに泊まってるんですか?」


さすがに聞いてしまった。


「いや、そんなに頻繁じゃないけどね」

「そうですか」

「オレ繊細だから、ときどき無性に人肌恋しくなるんだ」

「はあ……」


人恋しくじゃなくて、人肌恋しくなんですね。

この人はそう言う人だった……それに、大人の男の人なんだよね。


でも……彼は『舷斗』でもある。


「楽しみだな! 玄関を開けたら小夜子さんが立ってるの」

「…………」



ニッコリと嬉しそうに笑う彼を見て、思わずピンポンダッシュしてやろうかと密に思ったことは、彼には内緒だ。





本当にいつも一言多い弥咲。

でも結構堪えてるみたいです。

今頃友達関係に発展?何事も歩みの遅いふたり?

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