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01

小説家と編集者……こんな感じなのかな?みたいに書いておりますので、皆様の広いお心でお願します。

「おはようございます。小夜子さよこさん」


冬の寒さが厳しい朝、私の部屋のベッドの上に起き上がって布団に包まりながら、寝ぼけた顔と声で彼が言った。


「おはようございます。弥咲先生」

「昨夜はお世話になりました……助かった。危うく凍死するところだった」


そう言って、間を瞑ったままにっこりと笑う。


「もういい年なんですから、もう少し計画的に行動できないんですか?」


昨夜の夜中、知人とお酒を飲んで 『電車もタクシーもつかまらないから、このままじゃ野宿で凍死する!』 って言って、人の部屋に転がり込んできた。


「いやあ~ついつい調子に乗って飲み過ぎちゃってね。付き合いも大変……あふ……」


バツが悪そうに、頭を掻きながら欠伸を漏らした。

本当に悪いと思ってるかは疑問だけれど。


「ウソ言わないで下さい! どうせまたひとりでいるのが寂しくなったからでしょ? 私のところじゃなくても、他に泊めてくれる人いるんじゃないんですか? 女性にだらしないんだから」

「だらしないってなに? オレは女性には優しいの! そこんトコ間違えないでほしいなぁ」

「私にはそんなこと、知ったこっちゃありませんから!!」


軽蔑の眼差しで見下ろすと、さすがにそんな視線に気付いたらしい。


「わーーホント、ひどい誤解、偏見、血も涙もない……」

「!!」


まだ言うかっ! この男っっ!! 一晩の恩を忘れてるなっ!!


「弥咲憂也っ!!  とっととココから出て行けっっ!!! 大体ひとり暮らしの女性の部屋をあてにするんじゃないっ!!」


クチの減らない不届きなヘタレ男に向かって、思いっきり指をさして言い切る!!


「ちょっ……そんなに怒んなくたっていいでしょ? なにカリカリしてんの? そりゃ夜中に突然押し掛けたのは謝るけど……」

「貴方っていつもそうですよね? 昔から突然人の家にやってくるんだから!」

「あ! もしかして、小夜子さんあの日??」

「!!」


なにそのナイスな思い付き! みたいな顔はっ!!

真顔で言ってるところが腹が立つっ!!

未だに布団に包まって、私を見上げる男を睨みつけた!


「こ、この無神経男!! 最っっ~~~~~低っっ!!!!」

「あれ!? もしかして、ホントだった?」

「そんなことあるわけないでしょっ!! おバカっっ!!」


もう疲れる……なんで朝からこんなに怒鳴らなくちゃいけないの??


この天然無神経男、名前を “弥咲みさき 憂也ゆうや”。

確か今年で34歳になるはず?


この男との出会いは今から6年前、私が高校2年の秋から冬に向かう11月ごろだった。




「高田先生、プリント刷り終わりましたけど?」


教科ごとの担当の先生の部屋で、古文の授業で使うプリントの印刷を頼まれて出来上がったから届けに来たんだけど……。

部屋には見たことのない男の人がひとり、開け放たれた窓に寄り掛かって、ぼーっとタバコを吸ってた。


耳が隠れるくらいのショートの髪で、背は結構高そうで……180近いかな?

色白で、タバコ吸ってる格好が結構サマになってて、歳は20代後半ってトコかな?


「あの……高田先生は?」

「え?」


私が声を掛けて、初めて気が付いたらしい。

なのにそんなに慌てた様子もなく、ゆっくりと視線を私に向ける。


「ああ、今ちょっと出てるけどすぐ戻ってくるよ」


言い終わると、ニッコリと笑った。


正面を向いたその人はなかなかの整った顔立ちで、男の人にそんなに興味のない私から見ても、ドキリとする顔だった。

こういうのを “美形” って言うのかな?

今まで私の周りでそんな人いなかったから、本当にいるんだ……こういう人。

なんて、一瞬の間に思ってた。


「ん? どうしたの?」

「ハッ! い、いえ……じゃあコレ、ここに置いておきますので高田先生が戻ってきたらそう伝えてもらえますか?」

「いいけど……なんで? 先生が戻ってくるまで一緒に待ってようよ? ね!」

「えっ!?」

「今、美味しいコーヒー淹れてあげる」


そう言って咥えタバコで部屋に置いてある食器棚を探り出した。


「あ! あの……結構ですから!! お、お構いなく!!」


お構いなく?? なんだか変な会話? ここ学校なのに。


「え? そう?」


惚けた顔してるけど、この人……一体誰? この学校にこんな先生いたっけ??


「あ……あの、新しい先生なんですか?」


思わず聞いてしまった。

だって、もし本当にこんな先生が前からいたら、絶対女子の間で噂になってるはずだし。


「え? ああ、ちがうよ。今日、高田先生に呼ばれてね。これから話するところだったんだけど、高田先生がどこかに出て行ってそれっきり……もう10分経つな。

で、暇してたところに君が来てくれたってわけ! まさに地獄に仏とは君のことだね!」

「は? じ、地獄……ですか?」

「そう、こんなムサイところにひとりでいたら気分が滅入る。よかったこんな可愛い子が訪ねて来てくれて♪」

「はぁ……」


なに? この人……なにか……変?


「君、名前なんていうの?」

「ええっ!? なっ、名前ですか?」


やだ、こんな怪しい男に名前教えなきゃいけないなんて……どうしよう。


「ん? なに?」

「え? いえ……あの……あなたココの先生じゃないんですよね?」

「え? うん……まあ……」


歯切れの悪い言い方だ。


「じゃあ、言いたくありません」

「は?」

「どこの誰ともわからない相手に、自分の名前を教えるなんてこと出来ませんからっ!!」

「…………」


もの凄いビックリした顔された。

でも、用心に越したことはない。

今の世に中、なにがあるかわからないから!!


「ブッ!! クックックッ……アハハハハ」

「!!」


お腹抱えて笑われた。

え? なんでよ?


「もしかしてオレ、君には怪しい奴に見えてるんだ?」

「………用心のためですけど?」

「素晴らしい! 君って優等生なの?」

「さぁ……自分では普通だと思ってますけど」

「そう? 名前も教えてもらえないなんてオレ初めてだよ。くすっ」


なに? 自分が聞けば誰でも答えてくれるとでも言いたいの? ……何気に自慢?


「と、とにかくそのプリントのことは高田先生に伝えといて下さいね。お願いします」

「はいはい……フフ」


まだ笑ってる……なんか失礼じゃない?


「じゃ……」

「またね」

「!?」


……また…ね?


私は不思議に思いながらも、サッサとこの場から離れたほうが賢明と彼の視線を感じながら、入り口のドアを閉めた。




「ふぁ~寒い……」


もう午前中の11時もまわったっていうのに11月ともなると寒い。

そうよね……もうすぐ12月だもん。


「…!!……!!…」


自転車置き場に向かう途中、道場の脇を抜ける。

ちょっと離れた脇道だから、掛け声と床を蹴る音が聞える。

はぁ……ご苦労様、部活だよね? 確かあそこは空手部が使ってるはず。

行ったことも入ったこともないけど、開け放った窓から中の音と声が漏れてる。

この寒いのに……あ、動いてるから寒くはないのか。

なんて当たり前のことを考えながら、私は歩き出した。


「……お~~い! お~~いってば!!」

「…ん?」


微かになにか呼ぶ声がする……って私? 私のこと呼んでるの??


「こっち! こっち~~~!!」

「!?」


声のする方に視線を向けると、今横を通って来た道場の窓からこっちに手を振る人影が……。


「ん? 誰? え? 私、空手部に知り合いなんていないわよ??」

「お~い! 久しぶり!」

「久しぶり?」


チョイチョイと手招きされたから、確認しがてら窓の近くに近付いた。


「あ!! あなた……」

「また会えたね」


そう言ってニッコリ微笑んだのは、この前高田先生の部屋で会った……。


「怪しい男っ!!」




ちょっといい加減で不思議な弥咲先生と、真面目な女子高生の小夜子さんが

出会った高校生時代のお話。

始まっていきなり昔のお話……しばらく続きます。

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