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逃げてください!

下品注意。


 ふかふかの座席は座りやすく、そこにそっと降ろされ静かにドアが閉められる。自分を包む黒い布が、さらりと肌を撫で落ち着いた。

 振動も音もほぼないそれは、誰がどう見ても高級と言う代物。すう、と目を閉じ耳を澄ませても耳障りなエンジン音はしない。


 どのくらい走っただろうか。とろとろと微睡んでいると、静かに停車し再び抱え上げられる。丁重な扱いに、気付かれないよう息を詰めた。

 歩いているのか、伝わる振動に胸が高鳴る。どくん、どくんと波打つ心臓が痛い。緊張に震えそうになる体に気付かれたくない。

 それは流石に、と何度も断った自宅への招待。痺れを切らしたのか、少々強引な誘いについに折れた。その熱意に戸惑うが、素直に享受する。


 ふかふかの椅子に降ろされた。気が早いのか、性急な動きで布を剥がれていく。身動ぎするが、柔らかな拘束に封じられ意味をなさず、布は簡単に足から落ちた。非難の眼差しを恐れてかされた目隠し越しに、ぐっと睨む。

 傷だけは付けまいとしているのか、存外優しくどこか慣れた手付きにむっとし、無言なのに少しの不安が胸に広がった。――だが、すぐに思い直す。男もまた、緊張しているのだと。


 それに気付けば、先程までの不安は払拭され、現金な自分に内心苦笑した。だが顔には出さない。こちらばかり内心が知られるなんて嫌だ。

 きゅっと口を一文字に引き結んでいれば、口に何かを押し当てられる。熱く、硬いそれは、口内に侵入しようと唇をノックし、ぐいぐい押してくる。無言のそれに眉を寄せ、拒否するポーズを取るがすぐに抉じ開けられ熱いそれが口内を満たした。


「――……っん、ぐ…ぁ!」


 喉の奥に出された熱い液体に驚き、反射でそのとろりとした粘液を飲み込もうと喉が上下した。こぼれた声に、ぎゅっと目を瞑り堪えた。

 ずるりと引き抜かれたそれが出ていった瞬間こぼれた唾液を拭い、屈辱に震える僕を気にせず拘束を解き後ろに回った男。僕は、喉の違和感に咳き込むしか出来なかった。


 ただ思うのは、早く終われば良いのにとそれだけ。久々のこれは、前よりもずっと屈辱的だった。


 ―――これだから、誘拐は嫌なんだよッ!!




 最近宝くじで三千イエン(日本円で三千円)が当たって浮かれていた、ハリーこと飯塚いいづか玻璃はりだ。

 現在僕は、誘拐されている。決して色っぽい事ではない。総料理長として誘拐されたのだ。

 こうなった経緯? 宝くじが当たって浮かれていたら、前からしつこかった何とかって富豪の子飼いの男に拉致られた。簡単に言えばこれだけだな。


 僕は、師匠夫婦に鍛えられた。魔法は帰還方法を探すためにそっち関係は自分から学んだが、体を鍛えたり他の魔法を覚えたりは意味がない。少なくとも僕はそう思っていたが、師匠夫婦によれば僕は自衛出来なきゃヤバいらしい。

 自衛を覚えるのが必須な理由は、料理の腕前。飼い殺しにされて延々と料理ばかりやらされたくなかったら鍛えろと脅された。ぶっちゃけ最初の方は全く信じていなかったが、今では感謝している。自覚はないが、僕は世界最高峰の料理人らしいから。この際料理人じゃねえってツッコミはなしだ。今は総料理長なんてやってるから否定も出来なくなったし。

 元の世界よりもずっと物騒なこの世界では、誘拐も多い。ハンターやら殺し屋やら暗殺者やら盗賊やらが普通にいるからか、一般人の思考も少し物騒。つまり、だ。力がないなら拉致って死ぬまで料理させようとって、金持ちは思うらしい。たかが料理のために? と思うが、それだけの物なんだとか。いまいち理解不能だが、実際誘拐事件が頻発してるので受け入れざるを得ない。


 で、何で鍛えてんのに簡単に拉致られてんだ? って事だが。火の粉を飛ばす大元をちゃんと消さなきゃダメだと理解したからだ。

 店で誘拐が起こるならいい。何故なら、SPがたくさんいるから裏にはこれないし、席に呼ばれて挨拶中に実行されてもすぐに取り押さえられる。当然、命令した大元が食事をし僕を呼んだのだから、目の前にいる大元を脅……話し合い、今後関わらないと約束させる。出禁をちらつかせればすぐ頷いた。魔法契約書を書かせれば、破った時に相手が呪われる仕組みになっているので約束は守られるだろう。

 僕がわざわざ誘拐を受け入れるのは、店の外……プライベートの時。命令された部下達が来るので追い返し、蹴散らし、ぶっ飛ばす。三回ぶちのめしても懲りない場合は、大元を叩くためにわざと誘拐される。勿論大元を調べ、あらゆる対処をしてからだ。

 今まで三回繰り返し、完膚なきまでにフルボッコにして誘拐先の屋敷を半壊させたのに、未だバカがいる。まあ噂が流れたからか、めっきり減ったが。因みにこいつらもきっちり契約書を書かせるよ。


 僕は戦うのは経験があまりないから巧くないが、純粋な力だけなら結構強い方だ。心強い味方もいるしね。ただ、逃げられるかとか、相手に強者がいたらやべえとか、色々考えて不安と緊張を毎回抱える。

 今回は、何とかって魔具で声を奪われ目隠しもされ、料理人だからか手は柔らかい拘束具で後ろ手に固定され、足は鉄枷を付けられた。そして黒い布袋に詰められ車でどこかに運ばれ、大元の屋敷か別荘かに連れ込まれた。袋から出されたは良いが、多分魔具の解除アイテムなのかな、とは予想していた変な筒状の魔具を口に捩じ込まれ、液状薬を喉に直接掛けられた。えずいて吐きそうになったぜ…。

 救いなのは、この実行犯が緊張している事かな。誘拐に手慣れてる感じはしたが、多分相当なVIP待遇を言い付けられていたんだろうな。いや脅されていたのかな? 丁重に扱い懐柔を企むのはセオリーだな。あ、因みに実行犯は二人が誘拐、一人が運転の計三人だ。

 早く終わらせて帰りたい。僕は、部屋にやって来た誘拐の黒幕だろう男を、冷たく睨んだ。




「よく来てくれたな、魅惑の料理人」


 でっぷりとした体型のおっさんは、どしんと偉そうに椅子に座り僕にそう言った。足は開き背凭れに体重を掛けた男は、上から目線でムカつく。

 答えない僕に、男はにやりと笑い葉巻を吸い出した。ちっ、うぜー。…ごほん、失礼。


「いやはや、こうして来てくれたと言う事は私の専属料理人となるのだろう? 嬉しいな」

「はッ、誘拐しといてなあに言いやがるこの包○野郎が」

「なッ」


 我慢出来ずつい言い返してしまった。ヤバいヤバい、これだから短気とか自制が利かないとか言われるんだ。

 俯いて一度深呼吸する。そして顔を上げ、固まった誘拐犯に向かって問い掛けた。


「僕を誘拐したのは、あんたの指示だな」


 質問と言うよりは、確認だ。誘拐犯は、人聞きが悪い、ただのヘッドハンティングだよ、とだけ言いにやにやした。……それだけ聞ければ、十分だ。

 僕は、魔力を手足の枷に流し強引に壊した。


「ッなあ!?」

「そ、そんな……ッ!」


 驚きで固まる誘か……豚男と後ろの男達から直ぐ様飛びさって離れる。どうやら、手枷は柔らかく肌を傷付けないが鋼並みに頑丈だったらしい。足枷は鉄だったし、それを易々と、しかも料理人がぶっ壊したのは信じられなかったらしい。


「な、何で……」

「あの料理の腕前で、更に体を鍛える時間もある訳が……!」


 ああなるほど。こいつらは、と言うか多分世間一般じゃあ僕は寝る間も惜しみ料理の腕を磨いたと思われてるのか。確かに、二十代前半で有名なレストランの総料理長にのしあがった訳だし、一応功績もあるからコネではなく実力だと思われるよな。

 そりゃまあ、そう思うのは当然だろうけどさ? 僕はこの世界の人間じゃないから当てはまらないんだよね。あ、体は約二年鍛えただけだからそれほど強くはないが、想像力が大事な魔法は多い魔力も相俟って得意だ。さっきの枷破壊は、破壊属性にした魔力を無理矢理大量に注ぎ込んだだけで魔法関係ないけど。


 身体強化をし、防御力を上げる。そして、亜空間からとある物を取り出す。


「あれは、空間属性…!?」

「何故料理人がそんな魔法を!」

「くそっ! おい早く捕まえろ!!」


 命令に従い襲い掛かってくる男達を(結構必死で)避けながら、先程取り出した物――スイッチをポチッと押した。

 何も起こらない。それに安堵し再び襲い掛かってきた男達。だが――…


 ドゴオオォンッ!!

 凄まじい爆音と揺れに、全員立ち止まり動揺した。


「なっ、何だ!?」

「爆発!? 一体どこで」

「くそおっ、貴様何をした!?」


「やあね、何かしたのは私よ?」


 現れた第三者に、みんな扉の方を見た。開け放たれた扉のところに悠然と立っているのは、ピンクパールを溶かしたような緩く波打つ長髪の美しい女。垂れ目の細身長身の彼女は、僕を見てにこやかに微笑み気安い仲だと示すように軽く手を振った。


「やっほ、ハリー」

「ナイス爆弾、リー」


 先程のスイッチは、この建物の外に控えているはずのこいつ……リーフェンへの合図だったのだ。

 海のようなブルーの瞳を優しく細め、この場に不釣り合いな親しみの篭った笑みを浮かべるリーは、我が師匠夫婦のむす…娘である。

 リーの登場に安堵した僕と違い、男達は真っ青になり震える指でリーを指差した。


「ぁ、ぁあ……ま、さか…っ」

「あらん? 私を知ってるのかしら?」

「ぁ…あんたまさか……ピンクパールの悪魔!?」


 優美で優雅な仕草で髪を払いながら小首を傾げ尋ねたリーに、返ってきた答えは……えっと、ツッコミ待ちなのか? ネーミング…。

 リーはそれにうふふ、とやたら蠱惑的に微笑み、ピンクベージュのグロスを塗った形良い唇に指を添えた。流し目が色っぺーっす。

 だが男達の口は、それだけで止まらなかった。


「あの最強夫婦めおとハンターのサラブレッド! リーフェンだと!?」

「お、俺知ってるぜ! 爆弾魔ボマー魔法中毒マジックハッピーで電脳世界最強の、ピンクパールの悪魔!」

「あ、あの最恐で最凶のヤベーか……!」


「だぁれが男だ、アァッ!?」


 地雷踏みやがって。そして説明口調乙。

 まああいつらが言う通り、リーは色んな意味でヤバい。ハンターと言う子供がなりたい職業ナンバーワンの存在なのに、爆弾魔で魔法使うと気が高ぶって我を忘れてヒャッハーするし、リーの主な仕事は情報屋だ。黒幕の調査もリーがしてくれる。

 んで、まあ、分かっただろうが……リーは、娘ではなく息子なのだ。生物学上は。 いやーあれだよな。性別不明で通ってるハリーさんと、男なのに女なリーフェンさんは、意外とウマがあったのですヨ。因みに、リーはガチムチ化け物オカマなんてベタな外見ではない。


「ひゃーっははははは!! そおら逃げろ逃げろ逃げろおおお────っひゃはははははははッ!!」


 膝まで伸びる美しく艶めくパールピンクの美髪を靡かせながら、リーはヒャッハーしている。いつもパーカージーパンスニーカーの僕にはファッション用語は分からないが、ふんわりでひらりんな淡いグリーンの女子力高い服を着た、とんでもない美女だ。化粧も薄いがきっちり隙なく施され、色っぽいが清純な美女になっている。

 あれで男だってんだから、反則だよなあ。


 ひいひい言いながら逃げる奴ら。と、その内の一人が僕の方に走ってきた。大方、僕を人質にするつもりなんだろう。僕が目的なクセにな。本末転倒もいいところだ。

 そんでもって、


「甘い」


 ナイフを手に走ってくる男に、魔法を使う。透明な縄は前に翳した右手から飛び出し男に絡み付く。そして、男は亀こ――げふんげふん、ちょっぴり複雑な縛り方をされ、床から生えたような縄に逆さ吊りにされた。


「ぐあッ!? なっ、何だこれえッ!?」

「僕が改造した捕縛魔法だよ。つーかあめえよ。ミレアが作ったドーナツよりあめえ」


 ミレアってのはデザート部門のチーフで、根性は野郎共よりあり肝っ玉の座った、たまーに忘れるがれっきとした女性である。


 ミレアのドーナツはな、黒い。で、油でべっちょべちょのべっちゃべちゃ。べちょべちょのべちゃべちゃではない、べっちょべちょのべっちゃべちゃなのだ。んで、あんま〜いシロップをた〜っぷり掛けて、チョコレートもたっぷり塗る。その上に、砂糖をたっぷり振り掛けた物が、ミレアのドーナツだ。

 僕は、あの時走馬灯を見た。あれは本気で死ぬと思った。もうね、おまいは何目指してんのって小一時間どころか一週間は問い質したい。あれは甘味の暴力だ。寧ろ甘味への冒涜だ。口に入れる前から体が拒否反応を示し、鼻の穴がぴくぴくし、脂汗が止まらないんだ。

 いざっ、と意を決して口に運べば……えっと、汚い話で申し訳ないのだが、戻しちゃった。はい、げーしちゃったのです。

 いやっ、でもあれは仕方ないって! 誰だって一度はさ、舌が痺れて感覚がないっつーか、溶けたみたいに感じた事があるんじゃないかな? あれがもっと酷くなったのを想像して欲しい。顎がきゅーってなって、脳天をガツンと殺った甘味は、僕の脳みそと舌を溶かして胸焼けを引き起こした。

 たった一口で、様々な現象を引き起こした。唾液が分泌され、胃がもたれ、何故か目が充血し涙が止まらず、泡噴いて白目剥いて気絶した。デジャヴを感じる体験だった。まさかドーナツで昇天しそうになるとは思わなかった。過ぎたる甘味は、ただえぐいだけなんだと、僕はその時強く思い教訓として脳に刻んだ。

 その後暫く舌が痺れて喋れないし食べられないし食欲自体沸かないし、暫く何もなくてもえずいていた。今でも、思い出すだけで吐き気を催す。うぷっ。


 つい思い出して青くなり口を押さえた僕。きっとあの時ミレアは僕を暗殺するつもりだったんだ。そう思わないとやってられない。ガチであれとか悲惨すぎる。…まあガチだったんだけど。

「てめえらの考えてる事なんぞお見通しだ。ワンパターンなんだよ。ったく」


 毎回毎回、芸がないねえ。似たような奴らは、似たような思考回路なんかね?




 そうそう、こんな風に誘拐に乗っかる事は過去にもあり、その全てで建物の半壊が記録されている。何故かって? それはね……


「ヒーッハッハッハ!! 俺様の前に障害はいらねえええええっ!! 全部消えちまえ────ッ!!」


 ……リーさんがヒャッハーするのが、原因だ。毎回我を忘れるんだから。

 僕は専ら避難担当だな。流石に殺人には抵抗があるし、契約書にサインして貰えばまあいいし。全員回収し窓から外にぶん投げ僕も避難する。大丈夫、下は柔らかい土だし、防御魔法も掛けてあるから。

 ――さて、そろそろあいつも落ち着いたかな?

 別荘っぽいなかなかの屋敷が、見るも無惨な半壊状態(寧ろ三分の二は瓦礫の山)になった頃、もうもうと立ち込める土煙から笑顔の美女が悠然と歩いて出てきた。やたら晴れやかな清々しい笑みは、すっきりしたと告げていた。心なしかお肌はつやつや、目は恍惚としている。

 乙女のたしなみとかで、魔法により汚れが一切ない美の女神は、男達にとっては美しい死神にしか見えないだろう。ぶるぶると大の男が情けなくも震え、アンモニア臭が鼻についた。恐ろしい気持ちはすげー分かるが、下の蛇口の栓はしっかり閉めておいて欲しい。


「おっつー、リー」

「あっは、疲れてなんかないわよう! 気ン持ち良かったわあぁ──……んふっ」


 はあ、と官能的な溜め息を吐くリー。ここだけ見れば、男だけならず女もつい顔を赤らめそういう気持ちになっちゃいそうだが、事情をよく知る僕達にとっては恐怖でしかない。特に、あの狂気を向けられた誘拐犯一味は、今にも死にそうな顔色だ。

 呆れたような僕の視線に気付いたのか、余韻に浸っていたリーは我に返り僕の後ろで腰を抜かして地面に這いつくばってる奴らに目を向けた。その瞬間、リーの地雷を踏んだ張本人(性別を指摘した奴ね)が泡噴いて気絶した。どんだけ怖かったの。

 あ、因みに屋敷にはこの四人しかいない。まあ誘拐だしあまり人に知られたくないだろうしね。屋敷の人間は、人を殺すのを忌避する僕に気遣って、リーが調べて把握してくれる。良い奴だ。オネエだけど。


 んふ、と艶やかに笑ったリーを見て、僕は耳を塞ぐ。ドSモード全開のリーは、今から脅迫タイムである。契約書もリーが書かせてくれる。

 おんぶに抱っこで申し訳ないから、僕は普段の手抜き料理(真面目に作ったら色々とマズイのは師匠夫婦といた時に教えられたので、普段はかなり手を抜いている)と違い真面目にちゃんと作った料理を提供している。僕の料理に慣れたら他の料理が食えなくなるとか言うので、たまにだがこうして恩返しをしている。これだけでお礼になるかは分からないが。


 閑話休題。


 リーはゆっくりと、わざわざ足音を立てて近付き泣きじゃくる豚男の前にしゃがみ込む。動作が一々優美で優雅でやたらめったら色っぽいのは何故なんだろう。それが自然なんだから凄い。

 ……さっ、きっちり耳を塞いでっと。


「うふふ、貴方分かってるのかしら? ハリーに害するとはつまり、アルケミス親子を敵に回すってことよ。序でに、アヴァロンのファン・フリークである世界中の権力者をも敵に回すのよ。ねえ分かってる?」

「ひっ…ぃぁ……」

「あらあら、やっぱり家畜には人の言葉は難しかったかしら? ごめんなさいね、私ったら気が回らなくて。――ねーえ、ここに契約書があるわ。金輪際ハリーに手を出すなって言う魔法紙と魔字で作られた契約書なの。ハリーは優しい、ううん甘いから契約書にサインすれば店には来て良いって言うのよ。まあそこがハリーの良いところだけどやっぱり納得行かないのよね。ま、貴方程度の小物ならどうとでも出来るから良いんだけど」


「ねえ、勿論サインするわよね? まさか断るの? 断るなら頷くまで、サインするまで私は貴方達如きに貴重な時間を割かなくちゃいけなくなるのよね。まずは貴方の○○○を○○して獣の○○○で○○させるわ。その後貴方のちいちゃな○○を○○○○○でギコギコして、○○は○○○って○○○に詰めてしまうの。それから―――え? あら、サインしてくれるの? それは良かった! ハリーとの時間を邪魔されるのは嫌いなの。どんどんエスカレートしちゃうのよねっ」


 ………ツッコまないから。優しくおっとり困ったように微笑みながら言ってるのに、内容はただの下品な伏せ字のオンパレードとか、その内容が怖すぎるとか、つーか………ああいや、ツッコまないんだった。と言うか耳塞いでた意味ねえし。丸聞こえだし!

 うふふっ、と笑ったリーに促されるままに、ガクガクとヤバい感じになってる豚男はサインした。血判も。その瞬間、契約書は蒼と白の綺麗な炎に包まれ消えた。どういう仕掛けかは分からないが、これで契約違反すればすぐに分かり自動で罰が下るんだとか。便利だよなあ。


「はいお疲れ様。じゃあ私達は帰るわね」


 にこやかにリーがそう言うと、緊張の糸が切れたのか、がくりと気絶した。うん、そりゃそうだよね。


「じゃっ、帰りましょっか!」


 立ち上がって綺麗な微笑みを浮かべながらそう言ったリーに、若干頬を引き攣らせながら頷いたのは見逃して欲しい。これのお陰で再犯はないし事件もめっきり減った(情報操作も上手い具合にリーがしてくれている)のだが、怖いもんは怖いのだ。


「うん、帰るか…」




 一旦店に行くと、もう夜中だと言うのに全員いて、僕が店に入った瞬間大号泣しながら一斉に飛び付いてきた。


「じじょぉ〜〜〜っ!」

「無事でよがっだでずううぅ」

「何でわざと捕まったんでふがあああ!」

「逃げてください! 総料理長! うわあああああんっ!」

「もっど自分を大事にじてくだばいいぃ〜〜〜〜!」


 ……これは甘んじて受けます。例え、服に涙や鼻水がつこうと、服が引っ張られ伸びようと、罰として髪の毛を一本抜かれようと、抜いた髪をお守りにしようとうっとりされようと………って最後のはダメだ!

 こうしてこいつらが泣いてるのを見ると、改めて思う。


「……僕って、意外と愛されてんなあ」

「ふふっ、今頃分かったの?」


 しみじみ呟いた僕に、リーが悪戯っぽく笑ってウインクした。うん、今頃分かった。

 何だか胸の辺りがほわんとして、急に恥ずかしくなったので縋り付くシェフの頭をぱしんと軽く叩き、今日はもう解散と告げた。叩かれたシェフがやたら嬉しそうで、周りがそのシェフを羨ましそうに、そして僕を期待の篭った目で見てきたのには気付かないふりをして。


 この日は、リーは僕んちに泊まる。今から軽く食べて眠って、明日はご馳走を作る。あいつらにも何か作ってやるかな。…気紛れだからね、勘違いしないでよね。心配掛けちゃったからとか、申し訳ないとかそんなんじゃないんだからねっ。(つんでれ風味)


 軽食を軽く酒を飲みながら食べたのだが、思いの外酔いがすぐに回り結局徹夜してしまった。主にリーの性的嗜好を聞かされた。前はバリタチだったが今はネコにもちょっぴり興味があってリバに転身するのもいいかなってさ。意味が分からない人はそのままずっと分からないままでいて欲しい。

 取り敢えず、ちょいSを屈服させるのが快感とか調教したいとか言いながら、こっちを流し目で見るのは止めてください。つーかおまいが両刀なのは知ってるが、性別不明まで守備範囲内かよ。あ、お仲間ではないから。


 こうして、僕の親友との夜は更けていく。うん、不潔だ。僕達のトークは基本下ネタばっかだな。




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