プロローグ
『冥界』。上の奴らはそう呼んでいる。『上の奴ら』と言うものは、いわゆる人間や動物のことを指していて、この『冥界』ではそれらをまとめて、『上の奴ら』とか、『地上の奴』などと呼んでいる。もちろん、人間とちゃんと呼んでいる人たちも少なからずは存在する。
ここ冥界では、上からの『死者』と、ここから生まれ変わり、新たな生命を獲得する『転生者』が何千人単位で行き来している場所である。冥界にたどり着くには大きく分けて二つのルートが存在する。
一つ目は、肉体が朽ちて、『死者』となった者は一度『死者厳正裁判所』、略して『死厳所』にて、合計十個の簡単な質問に答え、最終的に裁判官である『決定者』の判決によって『天界』か『冥界』かのどちらかに送られることとなる。
二つ目であるが、これは非常に稀な方法であり、過去でも数十回くらいしか行われたことのない判決方法、いや、そもそも判決ではなく、『連行』という方がふさわしい。過去に常軌を逸し、悲惨な行為をしてきたものを、冥王ハデスが厳正に判断及び選択し、下されるその方法の名は『強制冥界連行』。『決定者』に判決を下されることなく、直接冥界からの使者が本人の下に向かい、強制的に魂を抜きとり、冥界へと誘う方法だ。冥界からの使者は『連行者』と呼ばれる。この方法で連行されてくる人は特別な事例を除き、大半の者は転生の期が訪れぬまま、冥界の『特別牢獄』へ有無を言わさず放り込まれる形式となっている。(冥界基本事項録 第一章より抜粋し、説明者が朗読したもの)
上記の方法によって冥界へと誘われた者たちは、判決のレベルによって労働の過酷さが変わっており、レベルが低いほど、労働が軽く、近いうちに転生の許可が下りる仕組みとなっている。レベルは全部で1~5まで存在する。『強制連行』の者はどのレベルにも分類されないものとする。
大抵のものはレベル1~3止まりでただの死者扱いなのだが、、レベル4~5の者は死者の中でも危険度が高い者が多い仕組みとなっている。(冥界基本事項録 第二章より抜粋し、説明者が朗読したもの)
『天界』というのは、『冥界』とは対の存在の、言うなれば『天国』である。天界の本質のうち、『死者』と『転生』は冥界と同一だが、大きな違いが一つ。労働がないということだ。労働は任意で行え、自由気ままに暮らせ、誰も咎める人のいない真の楽園である。しかし、その楽園にも過去までは一つ問題があった。それは、『転生』をしたくないという人が大多数存在したからである。天界も冥界と同じように、毎日数千人の死者が判決を受けて舞い降りてくる。転生は強制ではない。それが災いし、転生を拒み、するものは毎日では数えられるほどしか存在しなかったた。そのため死者が増え続け、一度天界が異常なほどの人口爆発をみせて大変な事になったそうだ。
このままではダメだと考えた天界の王は、天界にやってきた者を順番に強制的に転生させるという強硬手段に打って出た。初めは案の定全員から大反対の猛反発を受けたとのことだが、その後は皆天界に別れを告げ、渋々と転生していったそーだ。(冥界歴史大全より 説明者による朗読)
転生とは、読んで字のごとく、新たな生命に生まれ変わるということだ。大体一日で数千人単位で地上に送り出され、それと同時に数千人の死者が舞いおりてくる。よって、冥界の人口は常に一定を保っている状態となっている。しかし転生といっても、自分で選べるわけではない。転生過程で、自動的に決まるのだ。人間かもしれないし、動物かもしれない。もしかしたら植物、あるいはUMA……などと種類は様々。もちろん、転生時は前世・冥界での記憶は抹消されるため、冥界の事がバレないのもそれがあるからである。(冥界基本事項録 第四章 転生より抜粋)
最後に一つ。冥界に来てしまった不幸な奴らに忠告しておいてやる。『冥界』の『暗黒面』には、絶対に、何が起きても侵入するんじゃねぇぞ。もし指一本でも侵入したら即刻『LEVEL』格下げだ。いや、この場合数字で言えば格上げの方が正しいのかな? まぁどっちでもいいさ。さぁて、そのチッサイ脳みそで理解できたかなァん?それじゃあこれで大まかな説明は終了だ。各自、決定者の判決によって手渡されたレベルの所定位置に速やかに向かえ。行き方は地図見りゃ分かる。ギャーギャー喚くんじゃねーよ。それがお前たちに下された判決なんだ。それでは、労働をしっかりこなして、しっかり“生き”たまえ、諸君。
ようこそ我らが『冥界』へ……。