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最終話です。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 わたしが綾香さんのところへ行ってから、あっという間に三日が経ってしまった。「ずっといてくれてもいいのよ」なんて言うから、すっかり帰りの準備をするのを忘れてしまっていたのだ。だから、あと一日したら帰るという電話をウィングにしようと思い、綾香さんちを出たのだ。もちろん、綾香さんの家にだって電話はあるけど、「もう帰る」なんでいう電話、綾香さんがいるのにしにくい。近くの公衆電話まで行こうと思ったのだ。

 綾香さんは、小さいが充分立派な一戸建てで一人で暮らしていた。わたしのお父さんは蒸発してしまった、と綾香さんは言った。どんな人か写真だけでも見てみたかったが、雰囲気がそれを許さなかった。

 二十円をコイン投入口に入れると、ウィングの電話番号を押した。ウィングには電話がイーサン先生の部屋にしかない。

 五回コールが鳴ったが、なかなかでない。留守なのだろうか。十回なっても出なかったら切ろうと思ったが、八回目で誰かが受話器を取った。

『もしもし』

 聞き慣れた可愛い声。それは先生のものではなかった。

「佳奈?」

『綾ちゃん?』

 電話の主――佳奈も驚いたようだった。

「え、何で?もしかして、先生たちみんないないの?」

 少し口ごもって、佳奈の「うん」という答えが返ってきた。

「へえ。珍しいね」

『……うん、みんな荷物の整理で忙しいから』

「そうなんだ。…って、ええ!荷物の整理?あ、ウィング改装するの?壁紙とか剥がれかけてたもんね。いいなあ、改装したウィング見てみたかったな」

『あのね、綾ちゃん』

 朗らかに話すわたしとは正反対に、佳奈は低い声で短く、こう言った。

『ウィングなくなるんだよ』

「そんな…――」

 初めは、佳奈の冗談だと思った。「そんな、嘘でしょ」と言おうとした。でも、電話越しに伝わってくる佳奈の無言の感情が本当だということを告げていた。

「な…んで……」

 佳奈の不安を消そうとできるだけ明るく話そうと試みたけど、実際は搾り出すような声しか出なかった。

『わからない。けど、先生たちが話してることを聞いてたら、ウィングを維持するためのお金が足りないんだって言ってた』

「みんなは?みんなはどうなるの!」

 我慢できず、大声を上げてしまった。周りの人が一斉にこっちを振り向く気配がする。でも、感情的になるのを抑えることはできない。

『鈴香は、お母さんの病気が治ったから、一緒に暮らせるって言ってた。でも、他の子達は別の施設に預けられたり、養子が欲しい人たちのところへ行くんだって』

「それじゃあ、みんなばらばらになっちゃうじゃない!」

『でも、しょうがないよ。鈴香も嬉しそうだったよ。少し寂しそうにも見えたけど。明日の昼にはみんなここからいなくなるんだって』

「それはいつから決まってたの?」

 一日や二日で他の引き取り手を見つけることは難しい。最低でも、一ヶ月前にはウィングの引き払いは決まっていたはず。

『みんなには綾ちゃんが出発した日の夜、園長先生が戻って来たときに言った。けど、ウィングがなくなることは綾ちゃんがお母さんのところにいく前から決まってたんだと思うよ』

 だから、あのとき、わたしが寝台列車に乗るとき、先生はあんな悲しそうな顔をしたんだ。ウィングがなくなることが決まってたから。

『あ、あきらに代わるね』

 遠くに、佳奈の「綾ちゃんだよ」と言う声が聞こえてきた。

「もしもし。あきら?」

『おれ……嫌だよぉ。ウィングがなくなるのも、みんなと…綾子と会えなくなるのも……そんなの嫌だよ…』

 あきらの情けない声。それを聞くのは初めてだった。いつも、憎まれ口を叩いていたから。もしかしてそれは、寂しくて、皆にかまって欲しかったから?

『綾ちゃん……』 

 あきらと代わったのか、今にも泣きそうな佳奈の声が聞こえる。

 わたしは、決意した。

「待ってて。今からそっちに向かうから」

『向かうって……え?』

 佳奈の言葉を無視して、わたしは受話器を置いた。財布を取りに、家へと走る。寝台列車に乗るためのお金だ。

 血の繋がり上では、綾香さんがわたしのお母さんで家族なのかもしれない。けれど、わたしにとっての家族はウィングのみんなだ。佳奈やあきら、真由美ちゃん、そらちゃん、絵梨、美貴、佳奈、鈴香、このみ、幸介兄ちゃん、桂馬くん、昌哉、深沢先生、柊先生、そして、イーサン先生。先生だってそう言ってたじゃないか。それに、まだ絵梨に「綾」って言ってもらっていない。

 ウィングこそがわたしの帰るべき我が家なのだ。

 お母さん――綾香さんは、仕方のない理由があったがわたしを一度捨てたのには変わりないのだ。それは、決して許されることではない。少なくとも、わたしはそう思う。

 みんなをほっとけない。見捨てることなんてできない。わたしなんかが行っても、何の役にも立たないかもしれないけど。それでも、わたしは行かなきゃならない、戻らなければならない、ウィングへ。

 ごめん――。

 わたしは心の中だけで、綾香さんに謝った。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「なんだ。ちゃんと書けるじゃない」

 

                終

最後まで読んでいただきありがとうございました。

実はこの作品は

2009年度のジャイブ小説大賞に投稿したもので

最終選考にも残らなかった駄作です。

この場を借りて客観的な意見を頂こうと思い、

「小説家になろう」でそのまま載せることを決めました。

批判っぽくなってもよいので、

感想お待ちしております。

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