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漆黒の遊戯  作者: ユウチ
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五‐‐‐‐ 談合

 第二校舎は、より一層静かだ。

 あの化け物の気配が全くない。


「こっちだ」

 第二校舎入り口の鍵を閉め、卓郎が再び歩き出す。

 入り口から入ってすぐ正面には図書室がある。

 その図書室の前に校舎内部の見取り図があるのを見つけた。

 これは使えるな。何度かこの学校には来たことがあるが、ほんの一部分しか知らない。

 川瀬は貼ってある見取り図をはがし、卓郎を追いかけた。



 なるほど、見取り図があるとなんとわかりやすい。いたって単純な構造だ。

 さっきまで川瀬たちがいたのは第一校舎で、一階には教員室、校長室、応接室などが並んでいる。

 二階から三階は1年から3年の教室。今いる第二校舎のほうは1年の残りの教室が二つあるほかは調理室、理科室、実験室、美術室、音楽室など、特別な授業の時に使う部屋が主なようだ。

 さっき川瀬たちが走ってきたのは、東渡り廊下。

 反対側にも渡り廊下があり、途中に保健室と食堂、体育館へ行く通路があるようだ。

 北のほうには第二体育館。こちらへは第二校舎一階から行ける。


 全体の主な構造はこんなもんか。見取り図があれば探索しやすいな。

 川瀬はそれを丁寧に折りたたみ、ポケットに入れた。



 三人は第二校舎の階段を上り、二階へ。階段のすぐ横にある音楽室のドアの前で止まった。


<コン… コココン…>


 卓郎がリズムよくドアをノックした。


「卓郎か?」

 中から男の声が返ってくる。

「ああ」


<ガラガラ…>


 ドアが開き、中からがたいのよい男子生徒が金属バットを持って現れた。

「無事か? おお、二宮! よかった!」

 男が有里の肩に手を置く。

 と、男の視線が川瀬に移った。

「そっちのは?」

「この人は川瀬の父親だ」

 川瀬が口を開く前に、卓郎が答えた。

「まあ、入れよ」

 そう言うと男は道を開け、三人は音楽室の中へ。


 音楽室の中は外とは違い、薄明るい。中央に置かれたアルコールランプのおかげだ。

 そのランプを5人の生徒が囲むようにして座っている。

 川瀬はすばやく全員に目を走らせた。どうやらここにも弥生はいないようだ。

「有里!」

「和海ちゃん! よかった!」

 有里が、ランプを囲む一人の少女に駆け寄り、互いを抱きしめ合う。

「おい、河上! 巧はいなかったのか!?」

 ピアノの上に座っていた長身で丸刈りの男子生徒が卓郎に詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。

「いや、だめだった。三階の廊下で頭をばっさりやられてたよ」

 相手を睨みつけながら堂々と答える卓郎。

「ちくしょう!!!」


<ガァン!!>


 卓郎を殴ろうと思い切り振られた拳は、軽くかわされ、後ろの壁に激突した。


「ちくしょぅ…」

 丸刈りの男は戦意喪失したのか、反抗することなく床に崩れた。


「とにかく、8人か…? 生き残りは」

 川瀬が卓郎に聞く。

「今のところは。でも、ここへ移動する途中に何人か殺された。川瀬はその前からいなかったけど」

「そうか…」

「いや、9人か。今、俺の友人が川瀬を探してる。まだ生きていれば9人だ」

 卓郎が訂正した。

「弥生を探してる?」

「ああ。ま、その話は後だ。まずはおっさんに聞きたいことがある」



 音楽室にいた生徒は、男子3人、女子3人。


 見張りをしている、がたいのよい男子は、≪藤原フジワラ ノボル

 呆然と床を見つめている先ほどの不良のような男子は、≪相沢幸司アイザワコウシ

 一言も喋らずうつむいている、長髪の男子は、≪ツジ 優哉ユウヤ

 有里と一緒に泣いている黒髪ポニーテールの女子は、≪坂野和海サカノカズミ

 隅の方で一人泣いているセミロングで小柄の女子は、≪川見由真カワミユマ

 ずっと窓の外を眺めて口笛を吹いているロングヘアの女子は、≪ミナミ アオイ



「さて、おっさん」

「なんだ話って? 別に話すようなことはないと思うが?」

 川瀬と卓郎は、ランプを挟んで向かい合って座っている。

「腑に落ちない。なぜ部外者のあんたがここにいるのか、詳しく説明してくれ」

「言っただろう。弥生を助けに来たんだ。1時10分くらいだったか、弥生から助けを求める電話があって、異常に怯えてる様子だった。やつらに襲われたんだろう」

「妙だな」

「何がだ?」

 後ろ頭を掻きながら卓郎は続けた。

「あのな。俺達が気絶したのもそのくらいの時間なんだよ。しかも今は電話が使えない」


 皆黙って卓郎の話を聞いている。

「実際、どの時計も1時12分で止まっている。本当にその時間にあんたの家に電話がかかったんならおかしいだろ? 川瀬は何に怯えていたんだ?」

「・・・・・」

 確かに卓郎の言うとおりだ。あの化け物がそんな時間からうろついていたというのは考えにくい。もしも… 弥生が別の何かで助けを求めていたとしたら、今俺がここにいて、こんなことに巻き込まれているのは… 偶然か…?


「わからないことは多すぎる。俺たちはどのくらいの間気絶していたのか。そして、その間に何が起こったのか」

 卓郎が激しく頭を掻く。

「少なくとも今は夜だろ? 外は真っ暗だし」

 見張り役の昇が言うと

「……そうとも言えないかもよ、空に星がないのよね…」

 外を眺めていた葵が呟いた。

 確かに、窓から見える空には星も月も雲さえも見えない。ただの闇だ。


「あ、それとおっさん、ここへ来る途中、死体を調べてたよな?」

 思い出したように卓郎が聞いた。

「その時調べた中で明らかな外傷がある死体はどのくらいあった?」

「いや、ほとんどは外傷なしだ。でも脈がなかったから間違いなく死んでいたよ」

 卓郎がゆっくり立ち上がり、皆に背を向る。

「二宮を見つけたときに確信した。どうやら生き残っているのは、2年3組のメンバーだけらしい。それとこのおっさんも」

 その言葉を聞き、一瞬、優哉が反応したが、すぐにまたうつむいた。

「そういえば… そうね…」

 有里がみんなの顔を見る。

「俺の見解では、皆気絶した後、2年3組のメンバーを除いて、一部の人間が化け物になり、そうでない人間はそのまま死亡した。というところか」

 うん、卓郎の見解には俺も納得できる。いや、納得したい。弥生が生きているという希望を捨てたくはない。

「卓郎の見解が当たってるとしたら、まだ生き残りがいるかもしれないな。俺も一緒に探そうか?」

「いや、藤原はここの見張りをしてくれ」

「・・・・・」

「誰かがここを守らなきゃいけないんだ」

 卓郎の説得に、昇はしぶしぶ了承した。

「すまないな。それと皆これを持っててくれ」

 卓郎が全員にホイッスルを渡す。体育の時間に先生が首からぶら下げているやつだ。

「危ない状況になったらそのホイッスルを吹け」

 なるほど。助け合いも必要か。しかし、高校生に助けを求めるのもな…。

 川瀬は苦笑いしながらホイッスルを首にかける。

「くそったれぇ!!」

 幸司が渡されたホイッスルを投げ捨て、音楽室を出て行った。

「おい!相沢!」

「放っとけ」

 昇の制止も聞かず、幸司は走り去り、それを見て卓郎が冷たく言い放った。


「おっさんは川瀬を探すんだろ?」

「ああ、もしかしたら弥生が一番危険な状態なのかもしれない」


「ねえ、弥生、理科室にいなかったの?」

 二人の会話を聞いていた有里が言った。

「弥生が理科室に?」

「一時頃に放送で呼び出しがあったんだ。理科室に来いって。でもそこにはいなかったよ」

 それを聞き、腕を組む川瀬。

 弥生を呼び出し…。その直後に起こった異変…。 すべてが偶然なのか?

 川瀬の表情を見て、卓郎が切り出した。

「何なら行ってみるか? 理科室はすぐそこだし、俺も用があるし」

 それに川瀬はうなずき、卓郎と連なって音楽室を出た。



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