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漆黒の遊戯  作者: ユウチ
32/45

三十一 契約

 竹下佳世。

 校長のセクハラが原因で自殺した女性教員か。

 先ほど祐史にその女の霊のことを聞いた。


 川瀬はもう一度卒業アルバムの写真を見た。

「重要だな。この竹下という女は」

 祐史の話からすると極めて重要だ。どうにかしてコンタクトできないものか?

「もしかして、その人が校長を殺すために皆をおかしくしたんじゃ?」

「いや、それはないと思うけど」

 祐史が葵の見解を否定する。

「悪い人だとは思えないんだよな…」

 それに卓郎も同じ意見のようだ。

「そうだな。そんなことができれば真っ先に殺されてるよ。校長」

「いい線いってると思ったんだけど」

 ガクッと葵は肩を落とした。

「いい線はいってる」

 フォローの言葉の後に、川瀬は続けた。

「校長探さないと」



 校長を探しに行く。

 あのまま放っておいていいものかわからない。

「探さなくてもいいんじゃね? 死ぬなら勝手に死ねって」

 こう言ったのは祐史。菜津稀の話を聞いて逆上しているのだろう。実際川瀬もそうだ。

「そうかも知れないが……」

「竹下佳世をおびき出す餌にはなる」

 言い詰まる川瀬の代弁をするかのように、卓郎が言った。

「あ、ああ… まあ…」

 俺はそんなこと微塵も考えていなかったのだが…。酷いことだが納得はできる。

 とりあえず苦笑い。


 こうして一応探しに行くことに決まった。

 3人はいたほうがいいということで、川瀬の他に卓郎、祐史も志願した。

 優哉を見張り役に、その他は校長室に残る。

「祐史“音”はもう大丈夫なのか?」

「心配するな。もう聞こえない」

「それはよかった」


 まずは武器の確認。

 3人ともナイフ系の武器だ。それと、川瀬と祐史がダイナマイトを一つずつ。

「まだ持ってたのか」

 卓郎が二人のダイナマイトを見て言った。

「ハハハ。怖くて使う勇気がない。ところでお前のそのかばん。何が入ってるんだ?」

 祐史が卓郎がずっと背負っているかばんを指した。

「爆弾だよ。化け物まとめて吹き飛ばすはずだったけどな…。そうもいかなくなった。預かっといて」

 そう言って、かばんを下ろし、優哉に託した。



「藤原がいれば…」

 校長室の扉を閉めた卓郎が一言漏らした。

「……どうしたんだろうな? もどって来ないなんて」

「おじさん… あいつは……」

「・・・・・」

 それ以上は何も言わなかった。

“もどって来ない”それが何を意味しているのかわかっているから。

「とにかく、校長が逃げていった方向を探そう。手遅れにならないうちに」

 無駄な考えを抑え込むように、川瀬が重くなった場の雰囲気をごまかした。

 二人も、そうだな。というようにそれに頷いた。

 死がこれほど身近に感じるなんて…。

 しつこく浮かんでくる死のイメージを頭から掻き消した。






 私はまだまだ死なない。

 竹下佳世! お前なんかに殺されはしない!

 一心に竹下から逃れようと走っていた大脇は、いつの間にか体育館監視室に逃げ込んでいた。

 鍵をかけ、棚を動かしドアを塞ぐ。

 菜津稀に負わされた左腕の傷が痛むが、大した怪我ではない。

「竹下… お前の思い通りにはならん」

 大脇はガラス越しに館内を見た。

 死体以外は何もいない。屋外への扉が開けっ放しになっているのが気になるが、たとえ何かが入ってきたとしても、さすがにここまでは来ないだろう。

 後は誰かが助けに来るのを待つだけ。それまで動かずに息を潜めていれば襲われることはないだろう。


 数分かけて呼吸を整え、考えを巡らせた。

「まったく」

 自殺なんかして、私を追いつめたつもりだったのか? あの時は私が最初に見つけたのが幸運だったが。おかげで厄介な遺書を回収することができたからな。

 次は他人の体を使って私を殺そうとした。あの柴崎とかいう子が校長室の前に倒れていた時から悪巧みは始まっていたのだろうが、それも失敗に終わった。

「馬鹿な女だ」

 さっさと殺せばよかったのだよ。ハハハ。


「何が可笑しいのですか? 校長先生?」


 急激に部屋の温度が下がった気がした。

 まさか……

 菜津稀の体を乗っ取った時と同じあの女の声。

 大脇の後ろに竹下が立っていた。

 侵入を防ぐための棚のバリケードも意味を成さず、竹下はそこに立っていた。

 6年ぶりに見るその女の姿は、自殺したあの時と変わらない外見だ。首のところに痛々しい紫色のロープのアザも確認できる。

「校長先生」

 異常な狂気を帯びている目。大脇への憎しみに染まっていることが見て取れる。

 大脇は恐怖しながらも平然を装って対峙した。

「竹下佳世、しつこい女だ」

「私はあなたに殺された。そして復讐するために蘇った」

 無表情で言う竹下。

「蘇った? 馬鹿を言うな。お前は死んだんだ! 自殺だ! 勝手に自分で死んだんだ!」

「いえ、私は蘇った。契約をしてね」

「契約? なんだと?」

 竹下の目が鋭く歪むと、空気が更に冷え込んだ。


「悪魔との契約」


<ピキッ…>


 背後のガラスにヒビが入った。

 大脇は何もしていない。当然このガラスは簡単には割れないようになっているのだが。

 竹下。この女の仕業だ。

 圧力をかけていないにも関わらず、なおもガラスはピキピキと嫌な音をたてて亀裂を走らせる。

「な、何が…」

 逃げる隙がなかった。逃げようにも自らが作ったバリケードによって道は塞がれている。

 まさかこいつ、わざと私をここへ…?

 館内ではいつの間にか、ずんぐりとした一つ目の怪物が2体、転がる死体をむさぼり始めていた。



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