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漆黒の遊戯  作者: ユウチ
29/45

二十八 誘致


<ゴオオオオオオォォォォォォ………>




「なんだ、こいつら…?」


 卓郎は生徒玄関の内側から外に顔を覗かせ、その奇妙な様子を眺めていた。

 ……また来た。

 部室棟のある方から化け物がよろよろと歩いてくる。卓郎は身構えるが、そいつは目の前を素通りし、校門のほうへ歩いていった。

 さっきまであれだけ攻撃的だったやつらが俺達に見向きもしない…。

「……わけわかんねぇ…」

 ナイフを構えたまま化け物が歩いていく先をじっと見つめた。

 生徒玄関から校門まで60メートルほどあり、校門前には花壇に囲まれた広いスペースがある。まるでコンサート会場のように、そこには人影が無数にひしめき合っている。校外に出ることもなく、ただ立ち止まって何かを待っているようだ。

 更に、誘われるように化け物が、一体、また一体と校門へ集まる。


「どうなってんだ?」

「・・・・・」

 眉をひそめる卓郎の横では祐史が壁にもたれて具合の悪そうな顔をしている。

「お前、大丈夫か?」

 卓郎が祐史の顔を覗き込む。

「音が… 聞こえるんだ…」

「なに? またか」

 祐史は音から逃げるかのように強く耳を押さえている。

「音ねぇ…?」

 再度耳を澄ますが、やはり聞こえるのは化け物共の騒ぎ立てる音だけ。祐史が言うような音はちっとも聞こえない。

 祐史にしか聞こえない音? 何か意味があるのか…?


 突然、祐史が耳から手を離し、歩き出した。

「どうした?」

「・・・・・」

 祐史は何も答えず、無表情で生徒玄関から外へ歩いていく。

「おい! どうしたんだ祐史!」

 卓郎が前に立ちはだかり、肩をゆする。すると祐史は卓郎と目を合わせず、校門のほうを見ながら、

「呼んでいるんだよ…」

 と一言だけ言った。

「呼んでる? 何が? おい!」

 理解できないままの卓郎を振り切り、祐史は化け物の群れへ――

 何してんだよ! 馬鹿っ!!

 急いで祐史に追いついた卓郎は、一つ息を吐き、横から祐史の頬めがけて拳を振った。

 うっ!と声を上げ、祐史が倒れた。それを卓郎が前から見下ろす。

「何考えてんだ!」

「……痛て… 殴ることないだろ…」

 殴られた頬を押さえ、口を開けたまま祐史が喋った。

「お前な… 今何しようとしてた?」

 呆れ声の卓郎を見て、祐史はハッとした顔をした。

「すまん… 何してんだろ。俺…」

「とにかくここから離れるぞ」


 祐史の腕を掴んで引っ張り起こし、その場から去ろうとした時だった。また一体、群れへ向かってくる影が見えた。

 職員、来客用玄関の前には駐車スペースが設けられていて、職員の車が何台か停められている。その前を歩いてくる人影はひょろりと高い。


「相沢だ」

 しかし様子がおかしい。さっきの祐史のようにただ校門の辺りを見つめて、ぶつぶつと口を動かしながら一直線に群れへ向かっている。

 おかしい… なんで人間まで? 俺は何ともないのに。

 幸司を目で追いながらこの不可解な現象に困惑していると、横から祐史が言った。

「行こう。気分悪いし…。たぶんあいつも呼ばれてるんだ」

「だから、呼ばれるって?」

 何度言われても卓郎には祐史の言葉の意味がさっぱり理解できない。

「行こう」

 二人は幸司が化け物の群れに入り込むのを確認し、その場を去った。






 川瀬は、優哉と校長室にもどった後、他の皆と、優哉からあのとき遭ったことの話を聞いていた。

 狭い室内の中央のテーブルに蝋燭が一本。それを囲んで座っている川瀬と葵と由真と優哉。大脇校長は自分の椅子に座っている。棚に置かれた小さな銅の人形も、蝋燭の揺れる明かりに照らされて不気味に見える。まるで怪談話をしているかのような雰囲気だ。いや、内容としてはそれに近いだろう。


 話は2階に居た理由から始まった。

 川瀬を手伝おうと後を追いかけたらしいが、どこかぎこちない話し方だ。どうしても話したくないことがあるのだろうと、川瀬は何も言わなかった。


 一つ目の喰屍鬼グールの話には由真も校長も青ざめた顔で聞いていたが、前に似たような怪物を目撃している川瀬は平然と話を聞いていられた。葵もさほど恐怖を感じていないような顔をし、川瀬の横で足と腕を組んで黙っている。菜津稀は今だ目覚めず、長椅子に倒れている。

 恐ろしいことといえば、今、すぐ上の階に、もしかしたら真上にその喰屍鬼がいるかもしれないという想像。これから行動する際に遭遇しかねないという不安。


「でもさー、そんな怪物どこから来たっていうの?」

 話し終えた優哉に葵が聞いた。でも当然答えられるわけもなく、優哉は首を傾げた。

 誰も答えられない。考えられるとすれば、あの深い闇の奥からだ。だが、恐ろしくて口には出せなかった。

 その後は、皆それぞれ考え事をしているのか、長い沈黙が続いた。



「遅いですね。藤原君…」

 何分かしてから優哉がぼそっと口を開いた。

「ああ」

 確かに忘れ物を取りに行ったにしては遅すぎる。何かあったのだろうか?

 探しに行きたいが、もう少しこの場にいたい気持ちもある。人の化け物ならまだしも、喰屍鬼なんてな…。絶対に遭遇したくはない。

 もう少し待ってみるか…。


「む? 外が騒がしいですね」

 校長が呟きながら窓の外を見た。川瀬も窓へ歩み寄ってブラインドの隙間から外を覗く。

 たしかに、何か騒がしい。

 大勢の人のうめき声や足音が聞こえてくる。しかし、目を凝らしてもこの位置からは闇しか見えない。

「見に行ってみるか」

 それを聞いて校長が驚いた。

「あなた正気ですか? 絶対にやめたほうがいい。ここにいるのが一番安全です」

「しかし…」

 必死に止めようとする校長を前に、ためらいながらも川瀬は言った。

「少し様子を見てくるだけですよ」

 また何か言われるかと思ったが、無茶をする川瀬に呆れているのか、説得も無駄だと悟ったのか。川瀬がドアにたどり着くまで一言も言葉を発さなかった。

 部屋を出る時、はあ…と溜め息が聞こえた。


「おっさん」

 校長室を出た川瀬の耳に卓郎の声が入ってきた。

 生徒玄関から卓郎と祐史がこちらへ向かって歩いてくる。心なしか祐史は気分が悪そうだ。

 おう。と二人に手の平を向けると、卓郎が後ろを振り返りながら言った。

「それより外ヤバイことになってるよ」

「ヤバイ? 俺も今から見に行くところだったんだ」

 二人が川瀬の前まで来た時、校長室の中から葵が顔を覗かせた。

「どうしたの?」



 二人を校長室に入れるとドアを閉めて鍵をかけた。

「皆ここにいたのか」

 卓郎が全員の顔を見回す。

「藤原は?」

「彼は忘れ物を取りに行ってる… のかな?」

 川瀬は曖昧に答えた。

「忘れ物?」

「あっ! 柴崎?」

 祐史が眠る菜津稀に駆け寄って、顔を確認する。

「あぁ… よかった……。生きてたのか」

 心からほっとした声だ。

「で、外では何が?」

「すごいことになってる。来てくれ」

 すると優哉が立ち上がった。

「僕も行きます」

「それじゃ、私も行こうかな。何かじっとしてられないし」

「え? 南さん…… 私も行く」

 葵の後に由真も立ち上がり、卓郎の前に集まった。

「……多いな… まあ、大丈夫だろう。祐史はここにいろよ。また“呼ばれ”たら厄介だ」

「俺も行くよ。何が起こるのか気になる」

「……ったく…」

 校長を見ると、呆れ果てたのか頭を抱えている。彼は残るようだ。

「じゃあ行くが、周りに注意しろよ」

 面倒くさそうに卓郎が言った。



今回のサブタイトル、シャレではないです;

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