一‐‐‐‐ 2-3
グロ系ですので、苦手な方はあまり読まないほうがいいかも…
「おい、タク! 聞いたか!?」
祐史がいかにも興奮した面持ちで、卓郎に話しかけた。
2年3組の教室― 机に伏せって半分眠っていた卓郎は、めんどうくさいと言いたげに、ゆっくりと顔を上げた。
時計を見ると、まだ8時14分。朝礼が始まるまで、後16分もある。
「今度はなんだ? ツチノコでも見つかったか?」
卓郎はうんざりしていた。森崎祐史は、学年― いや、学校一の情報通だ。
その情報通の一番の友達である河上卓郎は、毎朝のように、新情報を祐史から聞かされる。
しかし、そのほとんどが、卓郎には興味のないものであった。
「また、出たんだよ! 少女の幽霊が!」
祐史は、卓郎の気持ちなど露知らず、話しを続ける。
いや、気持ちを知っていたとしても、この情報通はおかまいなく話し続けるだろう。
「幽霊〜? もう9月だぞ…。怪談話の季節は終わったよ」
「本当なんだよ! 3年の村上って人が部活帰りに見たって! 夜の8時くらい!」
祐史は、まだ興奮が冷めないようだ。
この『私立大脇高校』は、創立7年という新しい学校だが、生徒の間では、そういった幽霊目撃談が尽きない。
というのも、この学校が建てられている場所は、15年前まで小さな神社が在ったのだが、管理者がいないため、取り壊されたのである。
「え〜! また出たの〜?」
二人の会話に聞き耳を立てていた弥生が話に割り込んできた。
「お、おう、そうなんだ。怖いよな…」
祐史がおどおどしながら弥生に対応した。
「どうしよう… 明日、英語の補習で帰るの遅くなりそうなのよね…」
「あ、あれ? 川瀬って、英語苦手だったっけ?」
「うん… それにしても変な学校に入っちゃったなー なんかすごい曰くありじゃない…。前に話してたじゃん。この学校が建てられる時に、土の中から小さな子供の骨が見つかったとか… 首を吊った人がいたとか…」
「はは…。川瀬って以外と怖がり?」
真っ赤な顔で弥生と話をする祐史を見て、卓郎はニヤつきながら再び机に伏せった。
午前の授業が終わり、昼休み。生徒達は各々仲のよい友達と集まり、昼食を食べている。
「それでな、その村上さんは…」
あれから祐史は休み時間になる度に幽霊談議を持ちかけてくる。
卓郎は食堂で買ったおにぎりを頬張りながらそれを聞き流した。
「ははっ!まだ言ってるよあいつ。何が幽霊だ。ははは!」
どこからか声が聞こえてきた。
祐史が周りを見回す。
教室の隅で男子生徒が3人集まって喋りながら弁当を食べている。
「ちっ、巧かよ。ああいう人の言うことを信じないやつは嫌いだな」
「お前は信じ過ぎだがな…」
卓郎はぼそっと言った。
「ん?何か言ったか?」
祐史が卓郎を睨みつけた。
「・・・・・」
卓郎は知らん振りをしてそれをごまかす。
「あーあ、同じタクでもお前とは大違いだよなー」
「・・・・・」
卓郎はあくまで知らん振りを決め込んだ。
1時00分。あと15分で午後の授業が始まる。
教室には休憩を終えた生徒達がちらほらと帰ってきている。
「5限目… 数学… か」
卓郎の席の前で読書をしていた祐史は憂鬱な声を出した。
卓郎は、昼食を終えてからずっと机に伏せっている。
「お前、今日はよく寝るよな」
祐史は返答など期待していなかったのだが…。
「ああ、なんか今日は気分悪いんだよ」
どうやら眠ってはいなかったようだ。
「風邪だな」
「いや、そういう気分の悪さではない…」
「そうか、次の授業が数学だから気分悪いんだな。わかるよその気持ち」
腕組みをする祐史。
「アホか」
卓郎の言葉に、祐史はこのグータラを殴ってやろうかと手を上げたが、突然響いてきた軽快なリズムのチャイムで反射的にその手を止めた。
『ピンポンパンポン♪ 2年3組の川瀬弥生さん。理科室まで来てください』
「川瀬?てか、なんで理科室?」
祐史の疑問に卓郎はわからないというように肩を上げた。
「数学の準備しなくちゃいけないのに…」
友達と話をしていた弥生は、ぼやきながらも教室を出て行く。
祐史はその様子を目で追っていた。
「ふふふ…」
突然、机に伏せっていた卓郎が飛び起きた。
「どうした? タク」
祐史の問いは卓郎の耳に届いていないようで、辺りをきょろきょろと見回している。
「今… 笑い声が聞こえなかったか?」
「え? 聞こえねーよ」
「そうか…? 気のせい… か」
とは言いつつも、卓郎はしばらくの間辺りを見回していた。
週1〜2回くらい更新します。(保証はしませんが)