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漆黒の遊戯  作者: ユウチ
14/45

十三‐‐ 微笑

<ザシュッ…!>


「ぎぴゃああああぁぁっ…!!!」

 暗い空間に真っ赤な血しぶきがあがる。

 祐史は耳元で聞こえる叫び声に耐えながら、男子生徒― 化け物の首に突き刺さった包丁を握りしめる。

「ふう… ふう…」

 俺はここまでに何体殺した?

 倒れた化け物を見下ろす。首から血を流しながら痙攣する人の形をした化け物。

 それはやがて動かなくなり、ただの屍と化した。

 俺が殺したのはこいつで何体目だ?

 祐史は死体をまたぎ、先へ進む。


 なんだ、この気持ちは…? 化け物を殺す度に強まるこの気持ちは…?


 快感…?


 これが人間の本能なのか? 理性じゃない、人間の本能?

 白かった制服も、今は真っ赤に染まっている。


 ここにいたら俺までおかしくなりそうな気がする…。俺も理性のない化け物に…。

 一部の人間だけが化け物になったと、タクは言っていた。信じていいのか…?



 川瀬と別れた祐史は、体育館へ向かっていた。

 前に来た時は、すべて調べる前に菜津稀を見つけたので逃げることを優先した。

 しかし、それによって結果、菜津稀を見失ってしまった。


 川瀬― 弥生を探す…。それに、もしかしたら菜津稀が無事で体育館にもどっているかもしれない。



 体育館には相変わらず死体だけが転がっている。化け物はいない。

 祐史は体育館の奥にある階段を上る。二階のドアの前に立ち、深呼吸。

 懐中電灯で照らされたプレートに「体育館監視室」と表示されている。


<ガチャ…>


 ノブを回し、ドアを押す。キィ…と音をたてて開くドア。

 耳を澄ますが、物音は聞こえてこない。

 室内に一歩足を踏み入れると、ひやりとした空気が頬を撫でる。

 体中の毛がゾワリと逆立つ。

 空気が冷えきっている… 冷房はついてないよな…。

 懐中電灯で室内を照らす。

「ひっ… ぁ…」

 祐史は息を呑みこんだ。

 端にある机の前の回転椅子に誰かが座っているのだ。

 その人物は、祐史に背を向け、監視室の大きなガラスから館内を見つめている。

 長い髪を後ろで三つ編みにしている女性。制服ではなく紺のセーターを着ている。

「だ… れですか…?」

 祐史が恐る恐る喋りかけた。

 女はゆっくり椅子を回転させ、祐史を見た。そしてにっこりと微笑む。

 女がかけている眼鏡のレンズが、光に当たって白く反射する。

 光を顔に当てているのに眩しそうな素振りを見せない。

「誰ですか?」

 もう一度、今度ははっきりと聞きなおす。

 女は何も答えず、ただ祐史を見て微笑んでいる。

 何者? こんな先生はこの学校で見たことない。


 不思議な時間が流れる。


 祐史は動けなかった。女の微笑みから感じられるのは優しさではなく、悲しみと憎悪。

 しかし、なぜか恐怖を感じない。

 なんだろう… この感じ…… 頭がぼー、とする


 しばらくして女が立ち上がった。

 一瞬セーターの襟の下から紫色のアザが見えた気がした。

 はっと我に返る祐史。今の今まで女がいた場所には誰もいない。

 座っていた回転椅子がむなしく動いて止まった。


「逃げなさい…」


 耳元で女の声がした。

 とっさに振り向くが、誰もいない。


 ………何だったんだ…? あの人は…?   逃げろ…?


 女が見つめていたガラスから体育館を見下ろす。

 闇の中に赤い光が次々と増えていく。


「うあっ!!?」

 祐史は慌てて監視室から飛び出した。


 体育館ではさっきまで死んでいたはずの人間が赤い眼を浮かべ、起き上がっている。

 おいおい! なんで!?

 何体かの化け物が祐史に気付いた。

「タクのバカヤロー!!」

 体育館を出た祐史は、急いで扉を閉める。

 化け物が増えた… もうこれ以上の地獄は勘弁してくれー…


「……もう涙も出ないや…」



<ドォーーン…!>


 遠くで爆発音が響いた。


 絶望… か…


 祐史の頭に先ほどの女の微笑が浮かんで消えた。






「もうやめてっ…!」



     「ふふふ… 何言ってるの。まだまだこれからよ?」



「やめてっ!! お願い… だからぁ……」



     「嫌よ。あなたにはもっともっと絶望を味わわせてあげる」



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