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漆黒の遊戯  作者: ユウチ
12/45

十一‐‐ 決死

思ったより更新が遅れてしまいました。

「神様のクソッタレ…!」

 これ以上卓郎を呪うような出来事があるだろうか…。

 

 ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ…


 多数の足音が近づいてくる。

 三階からだけではない。一階からも無数の足音が聞こえる。

 間違いなくやつらだ…。一階からならともかく、三階からも、ということは… 俺の見解は間違っていたということか…?

 卓郎は凍りついたまま動くことができなかった。


 ダッ、ダッ、ダッ……


 足音が一斉に止まった。

 無数の赤い光が階段を埋め尽くしている。確認できるだけでも30はいる。


『ひひひひひヒひひひひィひひひヒヒひひひひひひィひひひヒひひ……!!!!!!!!!!!!』


 飛行機のエンジン音のような笑い声が卓郎の全身を突き抜ける。


「卓郎! どうした!?」

 昇が音楽室から飛び出してきた。

「にっ… 藤原…!! 逃げろぉ!!!」

 卓郎が叫ぶのと同時に化け物共が雪崩れのように押し寄せてくる。

「い!!?」

 その様子を見て昇は慌てて音楽室へ引き返した。

「卓郎!! 早く来い!!」

「言われなくても―― !!!?」

 卓郎が駆け出そうとした瞬間― 体が宙を浮いた。一体の男子生徒に突き飛ばされたのだ。

「卓郎!!」

 床に落ちた衝撃で息が詰まった。

 やべ…! 起き上がれない…!!

「に… げろぉ!! 早く!!! 鍵を掛けろ!!」

 卓郎は声を振り絞り、昇に叫んだ。

 音楽室のドアよりも奥まで突き飛ばされてしまった。そしてドアは早くもやつらに埋め尽くされた。

 くっ―――…!! 終わりか…!!

 しかし、敵はすぐには襲ってこなかった。どうやら昇が逃げ込んだ音楽室のほうに興味を示しているらしい。

「こっちだ…! 化け物!!」

 なんとか立ち上がった卓郎が、自分のほうに敵の気を引こうとする。

 しかし、卓郎に近づいてきたのはその中の10体ほどで、残りは音楽室に入ろうと、ドアを壊し始めた。


 最悪だ… このままでは皆死んでしまう…。

 卓郎は廊下の端に追いつめられてしまった。

 音楽室のドアは一箇所しかない。横に窓があるが、ここは二階だ。飛び降りて無事ですむという保障はない。卓郎に逃げ道はなくなってしまった。

「仕方ない…」

 そう呟き、手に持ったカバンからお手製のダイナマイトとライターを取り出した。

 こいつをこの群れの中心に投げ込めば、逃げ出す隙くらいできるだろう。

 火をつけてから爆発するまで10秒ほどか… うまく中心へ投げないとな…。

 卓郎はゆっくりと導火線に火をつけた。


 ジジジジジジジ… という音をたて、火花を散らしながら短くなっていく導火線。

 あと8秒…。 くたばれ!!

 ダイナマイトは確実に群れの中心に向かって投げられた。

 よし! 行った!

 正確な軌道を描き、宙を舞うダイナマイト。


 しかし…


<コン…>


 群れの中で空中を掻き回すやつらの腕に弾かれ、ダイナマイトが撥ね返ってきた。

 そして中心ではなく、卓郎の目の前にいる敵の足元へ…


 しまった…!! 近すぎる!!!

 ここで爆発したら間違いなく巻き込まれてしまう!!!


 導火線は徐々に短くなっていく。



 ちっ… ここでゲームオーバーか…


 ごめんな、祐史…



 父さん…






<ドォーーーンッ!!!!>

 凄まじい爆発音とともに、廊下にいた化け物共が吹き飛んだ。


「!!? 卓郎――!!?」

 音楽室の奥で固まって立っている昇と優哉と有里。

 何をしたんだ卓郎!!

 廊下に駆け寄ろうとする昇の肩を優哉が掴んだ。

「逃げよう…」

 優哉が小さな声で言った。

「…… どうやって逃げるんだよ…?」

 優哉は音楽室の窓を開けた。

「ここから出よう」

「馬鹿か…! 二階だぞ? ここは二階だぞ!!?」

「大丈夫、いけるよ」

 窓から下を除きながら優哉が言った。

「いけるだと? 何言ってんだ?」

 廊下では生き残ったやつらが、再びドアを壊そうとしている。

「死ぬんだよ…! もう、終わりだ!! 皆死ぬんだよ!!!」

「やめてぇ!!」

 有里が叫ぶが、昇の耳には届いていない。

「皆殺されるんだ!! 逃げることなんかできない!!!」

「…るせぇ……」

「逃げられ― な゛っあ゛…!?」

 優哉が両手で昇の胸ぐらを締め上げた。

「生き残ったやつが軽々しく死ぬなんて言うな!!」

「・・・・・」

 言葉が出なかった。

 普段大人しい辻が… 本気で怒っている…?

 優哉の腕から震えが伝わってくる。

 泣いているのか…? 辻…

 次々と仲間が消えていく… そうだ… 苦しいのは俺だけじゃない…。


「悪かった… すまない…」

 俺は… とことん弱い人間だ…



 昇と有里は、黙って優哉の説明を聞く。

「ここは二階だけど、すぐ下に花壇がある。うまくそこに着地すれば…」

 たしかに、地面まで3メートルはあるが、真下に丁度花壇があり、花が植えてある。土がクッションになって衝撃を抑えることができるだろう。

 隣で有里が不安そうな顔をしている。

「二宮、いけるか?」

 有里はすぐに頷いたが、その顔から不安の色は消えない。

 優哉が先に窓を跨ぎ、窓下にある足場に立った。

「ふー…」

 目を閉じて深呼吸する。

 そして昇に目で合図をし、飛び降りた。


<ドッ…>


 土を踏む音が小さく聞こえた。

 前に転がり、受身をとった優哉がすぐに立ち上がり昇にむかって手を上げた。

「よし、次、二宮だ」

 有里から返事が返ってこない。唇を震わせ、呆然と窓の下を見ている。

「大丈夫か?」

「……藤原君… 先に行って」

 有里の声は明らかに震えている。

 音楽室のドアはもう1分も持たないだろう。

「わかった。すぐに来いよ」

 二番目に昇が足場に立った。

「よっ!」


 昇も無事に着地。次は有里の番だ。

「二宮! 早くしろ!」

 しかし、有里は足場に立ったまま一向に動こうとしない。

「……和海ちゃん…! 河上君…っ!」

「おい、二宮!!」

 やつらがドアを突破する音が聞こえた。

「受け止めてやるから!! 早く!!」

 昇が真下に立ち、腕を構える。

「ひひひひひひひひひ…!!」

 来た…!! 二宮早く!!!

 有里はしばらく何か呟いていたが、決心したのか、目を見開いた。

 昇の腕にも力が入る。

 有里の足が足場から離れた。



 ………あれ…?


 しかし、有里は落下してこない。

「二宮ぁ!!!!」

 何が起こったのかわかっていない様子の有里。しかし、昇と優哉にはすぐに状況が把握できた。

 一体の化け物が、有里のセーラー服の襟をしっかりと掴んでいる。

 そして瞬く間に腕の数が増え、音楽室へ引き込んでいく。

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!!!!」

 無数の手に掴まれた両腕を必死に振り解こうと体をくねらせるが、それも無駄な足掻き。

 有里は音楽室の中へ消えていった。

「いや!!! いや!!! いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…!!!!」


 ゴキュッ…! バキバキュ… ズリュ……


 やつらの狂喜の声と人体を破壊する生々しい音とともに、悲鳴は聞こえなくなった。

 昇と優哉はその光景をただただ見つめることしかできなかった…。



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