表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

⑱あのコの名前。

 昼休みを告げるチャイムが鳴ると、沢村ミズキが脇腹を小突いてきた。

「早くしないと教室出て行っちゃうよ? いっしょにお弁当食べようって、言わなきゃ」

 ほらほら、と急かされて立ち上がると、梶間と目が合った。まだ青白い顔をしている。

「具合……悪いの?」

 いや、とそっけなく片手を上げた梶間は、まるでそれ以上あたしと話をするのが苦痛だとでも言うように、すぐさま背を向けてしまった。

「朝のこと怒ってる、の? あたしが余計なこと聞いて、昔のことを……」

「いや」またも彼は繰り返した。「水嶋さ……花梨ちゃんには、関係のないことだよ」

 それが本当なら、そんなコトバぶつけてこないと思う。

「だから……」さらに何か口にしようとした梶間は、クラスじゅうの視線が集まっているのに気づくと、すぐさま「出よう」とあたしの背中に手を回した。人波を避けるようにして、屋上に続く階段に足を向ける。カギがかかっているので、外に出ることはできない。行き止まりになった狭い踊り場の前まで来ると、小さなため息をついた。

「なんでもないから、おれ」

 それはまるで、暗示をかけて本当なのだと自分に言い聞かせているかのようだ。

「でも……」

「良かったよ!」あたしのコトバを遮るように、梶間は良かった良かった、と続けた。

「また友だち、いっぱいできたね。……昔みたいに。ちっちゃいころの花梨ちゃんは、強くて優しい、正義の味方だった。弱い者を守って、巨大な悪に立ち向かう、正義の味方」

 突風が屋上のドアを、向こう側から、どどん、とたたいた。

「……正義の味方じゃない……たぶん、あたしは……違う、と思う」

 あたしは、“弱い”者を守ろうとしていない。

「みんなに言われて、気づいたの。やっぱりあたし、姫のこと、ざまぁみろって思ってるんじゃないのかな。今まで散々いじめてきた分、今度はあんたが苦しみなさいって」

 梶間は、ゆっくりと振り返った。目元にうっすらとクマができている。疲れきった表情を隠そうともせず、「本当に?」と小さくつぶやいた。「そう思うの?」

「分からないけど」

 正直に言えば、そこまでではないように思う。

「何を言っているのよ、花梨!」背後でダレカが叫んだ。沢村ミズキだ。

「姫に散々嫌な思いさせられてきたんじゃないの! 今がそのときでしょ! あたしが手伝ってあげるから、復讐しましょうよ!」

 思わず梶間の姿をうかがった。彼は、色のない顔であたしを見て、沢村ミズキに視線を移し、もう一度あたしを見つめた。

「花梨ちゃん。姫の名前、言える?」

 面食らっているあたしより早く、沢村ミズキが反応した。

「姫は姫よ。ワガママ姫。それでいいじゃないの。梶間君、いったい何が言いたいの?」

 別に、とぶっきらぼうにつぶやいた梶間は、そのままあたしたちの肩先をすり抜けて、階段を下りていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ