⑰“ソレ”の代償。
沢村ミズキに続いて教室に入ると、仕入れたばかりの情報を声高に披露し始めた彼女につかえて入り口で足止めされてしまった。狂喜してウワサ話を始める女子らが周りに集い、自然とあたしもその輪の中心に納まることになった。
「どうして逮捕されたの?」
「収賄? だかなんだか、そーいうのみたい」
「何それ」
意味も分からず騒ぐのは、滑稽に思えた。それでも、輪の中心にいてみんなと何かを共有する感覚がうれしくて、ばかみたいにニコニコ笑い続ける。ほおが引きつって、ぴりり、と震えた。
姫の父親は、地元に大きな影響力を持つ政治家だ。それが逮捕となれば、今まで思う存分トラの威を借りてきた姫の失墜は、疑いようもない。これでは沢村ミズキの言うとおり、しばらくの間、彼女が学校に姿を見せることはないだろう。
「ヤバいね、うん」
車座というものは不思議なもので、内々にいればこれほど安心できるものはない。
「ざまぁみろ、だね? 花梨」
ダレカが、言った。
「今まで散々ワガママし放題だったから、バチが当たったんだよ」
ほかのダレカも言った。
びくり、と背筋が震える。真面目ぶるつもりはないが、あたしは言われるまで姫に対してそんな感情を抱いていなかった。ただただ驚くので精いっぱいで、すぐに反応できない。ここ数年の間に押し殺しすぎて鈍ってしまった感情が、まだうまく機能していないのかも知れない。
皆の視線が、積年の恨みを吐き出してしまえ、とうながしているように思えた。恨みつらみのこもったヒドいコトバを吐き出せ、罵倒しろ、笑え笑え、とあたしを責める。
「うん……そうだと、思う」上履きの先っちょに目を落とす。「あ――うん、姫もあたしと……同じ目に……遭えばいい」
でも。そんなことにはならないだろうけど。
続けようと思ったコトバは、沢村ミズキの歓声でかき消されてしまった。
「そうよね! 今まで花梨にしてきたこと、全部やり返そうよ!」
そこで初めて、彼女の目が笑っていないことに気が付いた。うわさ話を面白おかしくささやき合うほかの女子らと違い、彼女だけはやけに真剣に皆の反応を確かめていた。
「まずは何から始めようか」
沢村ミズキのコトバが、始業前の教室に鳴り響く。
「始めるって、何を?」
「決まっているじゃない。……仕返しよ」
でも、と目をそらした幾人かに向けて、沢村ミズキは高笑った。
「やだ。本当にやる訳ないじゃないのぉ。遊びよ、遊び。計画するだけだってば。こういうことをやったら、あの子はどういう反応をするのかなっていう想像? ……それだけ」