私の好きな人に彼氏が出来ました。
私が先輩のことを好きになったのは高校一年生の頃だった。
同じ美術部の先輩。綺麗な黒色の長い髪に整った中性よりの美人系の顔立ち。
そんな先輩の絵を描く姿が綺麗で私はその姿に一目惚れをしてしまったのだ。
当然だが先輩は女性だ。そして私もまた女性……というか女の子だ。
先輩のような整った顔立ちではない。どちらかというと可愛いねと言われることが多い顔立ちだ。
髪は黒色のショートヘアーで学校ではあまり目立たないいわゆる地味と呼ばれるべき女の子が私だった。
だから私にとって先輩は片想いの人であり、憧れの人ではあったけど恋人は勿論のこと友達ですらなくて知人であったかどうかも怪しかった。
そんな私と先輩が知り合うきっかけとなったのが一年の秋だった。
その日も私は落ち葉を拾ってその葉っぱをスケッチしていた。
私たち美術部はわりと自由な部活で何を描いても問題ないし何をしていても基本は怒られることはない。
私は昔から秋の風景が好きでよく秋に纏わるものを絵に描いていた。
「凄く上手いな」
「ありがとうございま……ってうわぁっ!?」
後ろから声を掛けられて適当に返事を返しながら振り向くとそこには大好きな先輩の姿があって、先輩は驚いた私に驚きながら気まずそうに頭を下げた。
「すまない。いきなり声をかけてしまって……ここの所、真剣に絵を描いていたから気になって」
「い、いえ……! そのむしろ声をかけてくれて嬉しかったっていうか! ずっと先輩と話したかったので!」
一年生の期間はもう終わろうとしている。そんな中で私は先輩とたまーに挨拶をかわす程度の仲でしかなかった。
故にこの瞬間を逃したくなくてこの挨拶以外の会話をもっとしたくて何とか先輩と話したい気持ちを伝える。
声も上擦っていたし顔は赤くなってるしドキドキだってしている。
だからいまの私は酷く情けなくて凄く恋をしている状態だ。
そんな状態でも私の想いは伝わったようで先輩は優しく笑ってくれた。
「実は私も君と話したかったんだ。君は秋が好きなの?」
「はい。凄く綺麗ですから紅葉が、あと暑くないし寒さもそこまでですし!」
「ふふっ、そうだね。秋が好きなのは絵を見ても伝わってくるよ」
先輩はスケッチブックの中身を見ながら優しい声色でそういってくれた。
ただ会話をしているだけ、ただ絵を見せているだけそんなの他の友達同士でもやったりするし先輩後輩の関係ならよくあることだ。
だけども私はこの時間。まるで先輩が恋人にでもなったような気がしてとても幸せな時間だった。
「もし良かったらなんだけど」
「え、えっと……! なんでしょうか!」
「ああ、いや。実は今度の休日に近所の公園で景色を描く予定なんだけど、私一人だと寂しくて良かったら一緒に来る?」
「ええっ!? いいんですか?!」
「勿論。ついでに余った時間に一緒にご飯食べに行こうよ」
「は、はいっ!」
それは単なる友人の誘い。女の子同士ならよくあること。
そんなのは分かってる。だけども私はそれでもその日はデートをしたのだとそう思うことにした。
そのデート以降、私たちの関係は知人から友達になった。
それからは沢山の時間を一緒に先輩と過ごした。
沢山の思い出が出来た。沢山の幸せを絵に描いた。
だけどもそんな日々は簡単に終わってしまった。
いや、違う。終わったのではない。始まってなかっただけなのだ。
「先輩! 今日も一緒に帰りましょう!」
学年が進んで私が二年生、先輩が三年生になった頃だった。
私がいつものように先輩と一緒に帰ろうとしていると先輩は申し訳なさそうな、それでいて照れ恥ずかしそうな表情で謝ってきた。
「すまない。その……今日から彼氏と帰ることになったんだ」
「……え? 先輩彼氏いたんですか?」
「き、昨日な……告白されてな。ずっと好きだった人で私では無理だと思っていたんだが向こうから告白してきてくれて……恋人になった」
「そ、そうなんですね! その……おめでとうございます!」
「ありがとう。だから一緒に帰れなくてすまないな」
「ぜ、全然!」
先輩はまだ照れているのか顔を赤くしながら笑うとその場を去ってしまった。
好きな人に彼氏が出来る。そのことを考えなかったわけではない。
だけどもそれはもっと先の話で今は私だけが先輩と一緒に過ごせるのだと思っていた。
「そうだよね……そりゃそうだよね。私は女だもんなぁ」
そこまでが限界だった。そう口にした途端に涙が静かにこぼれた。
告白なんて出来るわけがない。もし告白しても先輩を困らせるだけだとそう理由を付けて私は想いを隠してきた。
でも本当は違った。私が本当に恐れていたのは嫌われることだった。
女の子同士で好きなんておかしいってそう言われるのが怖かった。
「先輩がそんな人じゃないって分かってるんだけどね。それでも……告白は簡単に出来るもんじゃないよ」
私はそれだけを口にして先輩と同じように部室を後にする。
そして気がつけば私は公園に来ていた。そこは私と先輩が一緒にデートした公園。
今の季節は秋、夕焼けに照らされた紅葉が綺麗でそれをぼんやりと眺めていたのだが。
「あれは……先輩」
ここは先輩のお気に入りの場所。当然、先輩が来ていてもおかしくはなかった。
遠くのベンチでは先輩が座っている。そしてその横には優しそうな男性の姿。
この人は何度か私も見たことがあったし会話したことがあった。
恐らくこの男が先輩の彼氏なのだろう。先輩と彼氏は何かしらの話をしている。
それは距離が遠くてとても聞こえるものではなかったけど先輩の表情はしっかりと見ることが出来た。
その表情ときたら凄く幸せそうで顔を赤らめたり時には柔らかく笑ったり、全部私には見せたことのない友人としてではなく恋人としての表情だった。
「先輩……おめでとうございます」
私は涙を流しながら静かに呟いた。
ーーー
それからの私はなるべく何事もないように過ごしていた。
私は失恋したのだとだからもう先輩のことは忘れようと。
そんな私が放課後、あの公園に呼び出されたのはそれから一ヶ月後のことだった。
「先輩どうしたんですか? こんなところに呼び出して」
なんだか告白みたい。なんてちょっと馬鹿なことを考えてしまう。
そんなことはないって分かっていても期待してしまう自分が愚かだと思った。
「気を悪くさせたらすまない。どうしても最後に謝っておきたくて」
「謝る?」
「最近気づいたんだ。私が彼氏の話をする時、君は苦しそうな辛そうな顔をする」
それを聞いて私は落ち込む。折角、私の恋心を隠していたつもりだったのに先輩にはバレてしまっていたのだと。
私は覚悟を決めて先輩の言葉を待ち、それに答えるように先輩は自分の考えを口にした。
「ーー君は私の彼氏が好きなのか?」
「ーーは?」
ああ、そうか。私は普通の失恋すら出来ないんだ。
私はそんなに悪いことをしたのかな。そんなに先輩を好きになるってダメなことなのかな。
先輩も私の反応で自分が間違ったことを言っていると気づいたのかバツの悪そうな顔をした。
「す、すまない。全然違うことを言ってしまっていたらしい。もし私の彼氏が好きならば悪いことをしたなと思って話し合おうと思ったんだがーー」
そう呟く先輩を私は抱き締めた。別に恋が叶わないことは嫌ではなかった。諦めも付いていた。
だけどもこの恋をこの想いを勘違いされたくはなかった。
「私が好きなのは先輩ですよ」
私はそう言って笑うとすぐにその場から逃げ出した。
どうせ叶わない恋だ報われない恋だ。だけどもそれ以上に先輩の顔で先輩の声で私を否定されるのが堪えられない。
だから私は逃げるのだ。無我夢中でこの公園から離れようとする。
だけどもそんな私の腕を先輩が掴む、そして静かに私を振り向かせると優しく抱き締めてくれた。
「ごめんなさい。好きになってごめんなさい」
「謝るな。むしろ謝るのは私の方だ。すまなかった」
静かに先輩は呟くと私の頭をそっと撫でてくれた。
だけどもそれはやっぱり恋人としてではなく後輩として友達として慰めてくれていた。
「君の気持ちに気づかなくてすまない。君の気持ちを……理解できなくてすまない」
私はその謝罪の言葉に泣くことしか出来ない。先輩への恋心が辛かった先輩の優しさが苦しかった。
だけどもやっぱり好きで沢山の好きって気持ちが涙になって溢れた。
「私はやっぱり先輩が好きです」
「ごめん。私には好きな人がいる付き合っている人がいる……だから付き合えない」
分かってはいたことだ。でも先輩がちゃんと振ってくれたおかげで私はようやく失恋することが出来た。
「でも……ありがとう」
「……え?」
「好きになってくれて嬉しかったよ」
「なんですかそれー」
私は先輩の言葉に涙を流しながら拗ねたように口を尖らせる。
ずっと嫌われるんじゃないかって思っていた。
だから先輩の嬉しいって言葉に振られてはしまったけど少しだけ救われた気がしたのだ。
ーーー
それが私の初恋の想い出。今になっても秋の季節、この公園に来ると先輩のことをふと思い出してしまう。
「もう十年も前のことなのにね」
私は隣にいる恋人兼彼女の手を握りながら呟いた。
あれから十年。私は大学で知り合った別の女性と付き合うことになった。
その人と先輩は全然違う。髪型こそ長い黒髪ではあるがそれ以外は顔立ちだって可愛い感じで性格も先輩のようなしっかり者ではなくおどおどとした大人しい感じの女の子だった。
だけども彼女に抱いている恋心は先輩に抱いていた恋心と同じものだった。
私は彼女と一緒に赤くて綺麗な紅葉を見る。二人で綺麗だねって笑い合っているとふと見覚えのある人の姿が見えた。
その人も私たちに気づいたのか、嬉しそうな顔でこちらに駆け寄ってきた。
「先輩、久しぶりですね」
「久しぶりだな。ここにいるとよく会うもんだ」
たまにまだこうして先輩と会う時がある。だけども今日は恋人と一緒でそれは初めてのことだった。
先輩を見た恋人は慌てて繋いだ手を引っ込める。
「その人は?」
先輩は私の隣にいる女の子が気になったのか私に質問する。
それに対して恋人は慌てたように声をあげた。
「わ、私は……そのーー」
「私の彼女です! 恋人です!」
私は彼女の手を繋ぎ直して自慢げにそう言うと先輩は嬉しそうに笑った。
「そうか、おめでとう!」
「ありがとうございます!」
それだけの会話。それ以上は私と先輩は話すことはなく、私は耳まで真っ赤になっている恋人と一緒に公園を歩く。
「あの人は……元カノ?」
少しだけ嫉妬しているのか彼女は心配そうに私に尋ねる。
それに対して私は安心させるように彼女の頭を撫でる。
「ううん、ただの先輩。だけどとても優しくて良い先輩だよ」
私はそれだけ言って笑った。
完
ここまで読んで頂きありがとうございます!
長編の小説も書いているので良ければ読んでくれると嬉しいです
私が好きなのは親友(女)の彼女でした
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