誰も撮っていない
恐る恐る画面をタップする。
また画面がぶれている。
今日の昼休憩の映像だ。
けれどその画面は何かがおかしい。
よく見てみると、掃除用具が入っているロッカーの上あたりから撮られている画像だった。
どうして?こんな角度から撮れる人なんていない。
そう思いながらも視線は動画を追っている。
惨めで汚い自分の姿と、大はしゃぎしている虐めっ子の姿だけが映っている。
思いっきり泣きたくなったけれど、誰にもばれたくないから、一生懸命我慢した。
下に降りていくと、お兄ちゃんと妹がテレビのチャンネル争いをしていた。
私は後ろからひょいっと手を出して、リモコンを人から奪った。
「今日はこの後から推しが出るんだよ、絶対見逃せない」
そう言うと二人が、
「推しかあ!仕方ないなあ、もう」
と譲ってくれたので、三人で推しを応援した。
充実した推し活だった。
部屋に戻ると、なにかがいたような気がしたけど、人が隠れるようなスペースはないし、気のせいだろうと感じた。
そろそろ遅い時間だし寝るか!
寝る直前にアラームがセットされていないことを確認する。
ぐっすりと眠っていると、またアラームが大音量で鳴った。
時刻は午前二時十五分。
何だか時間が毎日早まっている気がする。
アラームを止めてまた深い眠りについた。
また重い朝が来た。
今日はいつもは奪われるから、持ち歩かない財布を持って出た。
購買で上靴を買うためだ。
お金を奪われなくても、こういう形で結局なくすんだ。
購買が開くのは二時間目が終わってからだから、それまで何とか財布を死守しなければならない。
教室に着くと誰も見ていない隙に、ロッカーの上を撫でてみた。
やっぱりカメラやスマホはそこにはなかった。
時間目が終わるとすぐに購買に向かった。
何とか財布は守られてよかった。
今日は何をされるんだろうと思うと、背筋がぞわぞわして落ち着かない。
昼休憩が来た、お弁当箱を開けると何もされていなかった、安心してお弁当を食べる。
食べ終わった後、虐めっ子達がやってきた。
「体育倉庫に来い」
逆らっても意味がないので、無言でこくんと頭を振った。
体育倉庫に着くと
あっという間に取り囲まれ、いきなり殴られた。
「最近ボクシングって面白いなって思っててさ」
「こいつサンドバックにして、みんなで殴ろうよ」
邪悪な笑みを浮かべた奴らは、私のことを殴ったりけったりし始めた。
兎に角できるだけ丸まって、やられ過ぎないようによく分からないまま、防御の姿勢をとる。
思いっきり頭を蹴られて目眩がする、頭を庇おうと腕を伸ばすと、腕を蹴られまくる。
どこまで続くのか分からない暴力、慣れてはきたけど痛いものは痛い。
口の中を切ったのか、鉄の錆びる味がいっぱいに広がる。
鼻血も出ているようだ。
腰骨を思いっきり蹴り挙げられた。
早く予鈴がなるようにと、頭の中でひたすら祈っていた。
予鈴が鳴った、虐めっ子達は満足そうに体育倉庫から出ていった。
私は保健室へと急いだ。
保健室にたどり着くと先生が、
「どうしたのその怪我」
と聞いてきたので、虐められていることを話した。
今度こそ助けてくれる大人でありますように。
その願いはあっさり拒絶された。
「気にし過ぎじゃないの?この学校には虐めなんてないでしょ」
結局あらぬほうを見ながら、手当だけはしてくれたが、最後まで虐めはないと言われただけだった。
何とか顔にははっきり見えるような傷はなかった。
お風呂に入る前に見ると、身体中が痣だらけだった、自分の身体とはいえ痛々しかった。
染みないように慎重にお風呂に入る、シャワーだけで済ませて手早く服を着込む、家族にばれないように、怪我をしても分からないルームウェアは何着も購入済みだ。
久しぶりに兄も妹もまだ帰っていないので、母に言う。
「いつも美味しいお弁当ありがとうね、みんな羨ましがってくれてるんだよ」
「わあ、本当に作りがいがあるわ」
と微笑んだ。
「今日のご飯何?手伝うよ」
そう言って母の料理を手伝う、こういう平和な時間が本当に幸せだ。
包丁の音だけが響いている。
トントン、トントン
テレビの音が小さく聞こえる。
ここではなんにも起きていない。
いつも通り。
私はただ玉ねぎを刻んでいるだけ。
玉ねぎが目に染みる。
このまま時間が止まって欲しいな。
ここだけが、私の居場所だった。
スマホが鳴る
「一件」
今日も宛名は私だ。
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