第七十三話:残り続けるもの
夜。
寮の窓から、王都の灯りが見える。
静かだ。
あの騒ぎが嘘みたいに、
何も起きていない顔をしている。
ルカは、ベッドに寝転んだまま、
天井を見つめていた。
(……眠れねぇ)
目を閉じれば、火が浮かぶ。
熱。
煙。
金色の瞳。
そして。
前に出た自分。
(……最悪だな)
思い出したくないものほど、
勝手に浮かんでくる。
あれは、選択じゃなかった。
覚悟でも。
決意でも。
ただの、反射。
考えるより先に、
身体が動いた。
(あの時と、同じだ)
胸の奥が、鈍く軋む。
火の夜。
守れなかった声。
届かなかった手。
名前は、呼ばない。
呼んだら、
きっと戻れなくなる。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
今世では、
奪わないと決めた。
介入しないと決めた。
自由に生きてほしいと、
本気で思っている。
――リディアには。
あの人には。
(なのに)
結局。
あの人が危ないと思った瞬間、
真っ先に足が動く。
理屈も。
約束も。
全部、吹き飛ぶ。
「……重症だろ、これ」
苦笑する。
前世と今世は別。
自分は自分。
エリザベートはエリザベート。
そう割り切ってきた。
割り切ってる、はずなのに。
それでも。
同じ人に惹かれてる自分がいる。
どうしようもなく。
(……笑えるな)
未練でも。
執着でも。
贖罪でもない。
もっと単純な。
ただの、感情。
窓の外を見る。
王都の灯りは、穏やかだ。
そのどこかに、
リディアがいて、
アランがいて、
セラフがいて。
それぞれの役割で、
それぞれの場所に立っている。
(……あいつは、すげぇよな)
アランの顔が浮かぶ。
選ばれるまで待つ覚悟。
削られても立ち続ける尊厳。
あそこまで真っ直ぐな奴は、
正直、勝てる気がしない。
「……だからって」
天井に向かって呟く。
「譲る気はねぇけどな」
奪わない。
でも、消えもしない。
面倒くさい感情だ。
それでも。
今はまだ、
この距離でいい。
隣に立てるだけでいい。
あの人が、
自分で選べる場所にいられるなら。
それでいい。
それだけは、
本心だった。




