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第七十一話:笑ったあとの現実



 放課後。


 中庭の喧騒が、ゆっくりと引いていく。


 笑い声。

 足音。

 購買の袋を鳴らす音。


 さっきまでの賑やかさが嘘のように、

 学院は静けさを取り戻していた。


 リディアは、一人、ベンチに座る。


(……平和ですね)


 思わず、そう思ってしまう。


 昼間は、

 ルカが騒いで、

 アランが書類に埋もれて、

 セラフが静かに微笑んで。


 いつも通りの光景。


 笑ってしまうくらい、

 いつも通りだった。


 なのに。


 ふと、手が止まる。


 視線が、

 自分の袖に落ちた。


 ――焼け焦げの跡。


 うっすらと残る、火の名残。


(……あ)


 夢じゃない。


 昨夜の熱。

 子どもの手。

 蒸気の匂い。


 全部、本物だった。


「……残ってるか」


 低い声。


 隣を見ると、ルカが立っていた。


 いつの間にか来ていたらしい。


「消えねぇもんだな、こういうの」


 自分の袖も、同じように焦げている。


 二人で、苦笑する。


「……怖く、なかったんですか?」


 ぽつりと聞く。


 ルカは、少しだけ考えてから言った。


「怖かったよ」


 あっさり。


「だから動いた」


「……え?」


「考えたら、動けなくなるだろ」


 軽く笑う。


 その横顔が、

 ほんの少しだけ、大人びて見えた。


 沈黙。


 風が吹く。


「……でもさ」


 ルカが、続ける。


「昨日、殿下が最後に出てきただろ」


 王太子としての介入。


 命令。

 撤退。

 終結。


「やっぱ、ああいうのは俺らじゃ無理だなって思った」


 リディアは、頷く。


 分担。


 役割。


 それぞれが出来ること。


 誰か一人では、足りない。


「……三人だから、ですね」


「だな」


 短い肯定。


 それだけで、十分だった。


 夕陽が、差し込む。


 学院は、穏やかだ。


 笑える日常が、ここにある。


 けれど。


 確かに、

 あの夜を越えた自分たちは、

 もう昨日までと同じではなかった。


 静かに。


 確実に。


 物語は、次の局面へ進み始めている。

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