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閑話XVII:王太子殿下の尊厳が今日も死んでいる件



 王立学院・昼休み。


 それは本来、

 学生が心穏やかに食事を取る時間である。


 ――はずだった。


「殿下、こちらの書類を」

「殿下、昨日の報告書に追加が」

「殿下、保護者説明用の文面確認を」


 アランは、机に埋もれていた。


 紙。

 紙。

 紙。


(……なぜ学院に来てまで)


 王太子である。


 王都の事後処理が山積みなのは分かる。


 分かるが。


(なぜ俺だけ)


 隣の席。


 ルカはパンを食べている。


 のんびりと。


 実にのんびりと。


「……おい」

「ん?」


「なぜお前は何もない」

「学生だから」


 即答。


 ぐうの音も出ない。


 アランの尊厳が一枚剥がれた。


 そこへ。


「殿下」


 リディアが現れる。


 アランの顔が、わずかに明るくなる。


(助かった……)


「こちら、購買で限定販売の新作菓子です」

「差し入れか?」


「いえ」


 即否定。


「糖分補給は大切ですので、皆様に」


 皆様。


 皆様。


 平等配布。


 特別感ゼロ。


 アランの尊厳がもう一枚剥がれた。


 さらに。


「セラフもどうぞ」

「ありがとう」


 自然に受け取るセラフ。


 自然に微笑むリディア。


 二人の距離、約一歩。


 アラン、硬直。


(近い)


 物理的にも心理的にも近い。


 ルカが横で呟く。


「殿下、顔こわ」

「こわくない」

「いや今完全に敗戦顔」


 追撃。


 尊厳、さらに削れる。


 その時。


「そういえば」


 リディアが、無邪気に言った。


「殿下、側妃候補の件は如何なさいました?」


 時間が、止まった。


 ルカ、むせる。

 セラフ、咳払い。

 周囲の生徒、ざわつく。


 アラン、固まる。


「……会った」


「まぁ」


「……リディアの話をして帰した」


 沈黙。


「……何をしているんですか殿下は」


「俺が聞きたい」


 即答。


 ルカが腹を抱えて笑い出した。


「何しに行ったんだよほんとに!」


「形式は満たした!」


「中身ゼロだろそれ!」


 セラフが小さく肩を震わせる。


 リディアは顔を赤くしている。


「わ、私の話など……なぜ……」


「他に話すことがない」


 真顔。


 悪気ゼロ。


 周囲の女子生徒たちがひそひそ言う。


「一途すぎない……?」

「王太子なのに……?」

「逆に重い……でも尊い……」


 アランの尊厳が、なぜか別方向に削れた。


 そして結論。


 王太子であっても。

 英雄であっても。

 昨夜王都を救っていても。


 学院ではただの男。


 しかも、

 ちょっと不器用で、

 ちょっと報われなくて、

 今日も尊厳が虚数の男だった。

緊張感が限界突破していたので、全力で日常に戻しました。


王都を救った王太子殿下ですが、

学院に来た瞬間ただの書類係になります。

そして本日も尊厳が順調に削れています。


なお、本人は至って真面目です。

周囲が勝手に面白くなっているだけです。


側妃候補に会いに行って惚気と愚痴だけ話して帰す王太子とは一体。


次回からは、また本編が動きます。

笑った分だけ、きっと後でしんどくなる予定ですので、

どうか覚悟してお付き合いください。

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