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閑話XVI:事件の後で一番大変な人



 王立学院は、平和だった。


 あれほどの騒動があったにもかかわらず、

 授業は再開され、

 生徒たちは、いつも通りの顔をしている。


 ――ただし。


「殿下、こちらに署名を」

「殿下、報告書です」

「殿下、その説明は三枚目から矛盾が……」


 アランは、机に埋もれていた。


(……俺、王子だよな?)


 書類。

 書類。

 書類。


 政治的配慮。

 貴族向け説明。

 なぜか増える質問状。


 その横で。


「へえ、大変そうだな」


 ルカが、紅茶を飲みながら言った。


「他人事みたいに言うな……」

「他人事だからな」


 アランの尊厳が、また一枚削れた。


 そこへ、リディアが現れる。


「殿下、こちら……」

 書類を置きかけて、手を止める。

「……まだ終わっていないのですか?」


「終わっていない」


 即答。


 リディアは、一瞬だけ視線を逸らし、

 咳払いを一つ。


「……その、無理はなさらず」

「君が言うと、余計につらい」


「?」


 完全に無自覚。


 その瞬間、

 ルカは悟った。


(あ、これ)

(殿下、報われるまで長いな)


 そして今日も、

 世界は平和で、

 アランの尊厳だけが、

 静かに削れていくのだった。

重い話が続いたので、ここで一度深呼吸用のギャグ回でした。


事件は解決しても、書類は減らない。

王子であっても、尊厳は守られない。

そんな現実を生きるアラン殿下に、心からの黙祷を。


なお、本人は至って真面目です。

周囲と読者が勝手に草を生やしているだけです。


次回からは、また本編に戻ります。

覚悟も感情も、ちゃんと回収していく予定ですので、

引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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