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第六十一話:庇うという反射



 考えるよりも先に、身体が動いた。


 それが、

 ルカ自身にとって一番の誤算だった。


「――っ!」


 火の粉が、弾けた。

 狙いは、子どもではない。

 だが、恐怖を煽るには十分すぎる位置。


(……来る!)


 理屈が追いつく前に、

 ルカは、子どもの前に出ていた。


 腕を伸ばす。

 覆い隠す。

 守るというより、

 反射に近い動き。


(違う)

(今世だ)

(これは――)


 頭の中で否定が重なる。

 だが、身体は止まらない。


 背後で、リディアの息を呑む気配。

 アランの叫び声。


「ルカ!!」


 聞こえている。

 それでも、動かない。


 火の熱が、頬を掠める。

 痛みはない。

 だが、その感覚が――

 記憶を、強く叩いた。


 あの時も、そうだった。


 子どもを前に、

 大人が立ち、

 正しさを選び、

 結果を優先した。


 守るためだと。

 仕方がなかったと。


 そう言い訳をして、

 ――取り返しがつかなかった。


(……もう、繰り返さない)


 ルカは、歯を食いしばる。


 今世では、

 奪わないと決めた。

 介入しないと決めた。

 自由を、守ると決めた。


 それでも。


 目の前で、

 小さな命が震えるのを見て、

 立ち止まれるほど、

 自分は器用じゃなかった。


「大丈夫だ」


 誰に向けた言葉か、

 分からないまま、口にする。


 子どもは、驚いたように目を見開いた。


『……どうして?』


 問いが、刺さる。


(どうして、か)


 答えは、簡単だ。

 だが、言葉にするのは、

 ひどく、重い。


「……それは」


 一瞬、詰まる。


 過去。

 罪。

 後悔。

 全部が、喉元まで上がってくる。


 だが、ルカは、

 それを飲み込んだ。


「今は、それでいい」


 子どもは、

 まだ理解できないという顔をしている。


 金色の瞳が、

 愉快そうに細まった。


『反射だね』

『でも、それが一番、厄介だ』


 分かっている。


 これは、

 計算じゃない。

 政治でもない。

 覚悟ですらない。


 ただの、

 間に合わなかった後悔が、

 身体を動かしただけだ。


 それでも――


 ルカは、一歩も退かなかった。


 火は、まだ消えない。

 夜も、終わらない。


 だが、この場所に限っては。


 少なくとも今、

 子どもと火の間には、

 確かに――

 ルカが立っていた。

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