閑話XIV:甘味と尊厳と、通常運転
昼下がりの王立学院。
中庭には、いつも通りの平和が戻っていた。
――少なくとも、表面上は。
「……で?」
ルカが腕を組み、目の前の光景を見下ろす。
「なんで、そうなる」
ベンチの中央。
リディアが、両手でマグカップを包み込み、幸せそうに微笑んでいた。
「このココア、とても美味しいですわ」
「それ、砂糖何杯目だ」
「ええと……五杯、でしょうか」
アランが、静かに咳払いをする。
「……体調は大丈夫か?」
「はい。とても元気ですわ」
そう言って、さらに一口。
ルカは遠い目をした。
(……激甘党にも程があるだろ)
一方、少し離れた場所。
セラフは、いつも通りの姿勢で紅茶を口にしている。
優雅。
完璧。
通常運転。
「……甘味は、心を和らげる」
「いや、あれは和らげる域超えてるだろ」
ルカが即座に突っ込む。
その瞬間だった。
「……なぁ」
アランが、ぽつりと呟く。
「どうして、俺だけ」
視線が、三人を順に巡る。
「こんなに見られている?」
周囲の生徒たちの視線は、確かにアランに集中していた。
「殿下、顔が怖いです」
「考え事が全部顔に出てる」
「さっきからココアを睨んでる」
アランは、固まった。
「……俺は、ただ」
「尊厳が消えてるだけだな」
ルカが即答する。
「そ、そんな……」
アランがわずかに動揺する。
セラフが、紅茶を置いた。
「安心するといい」
「何がだ」
「君の尊厳は、失われたのではない」
「本当か?」
セラフは、穏やかに微笑む。
「最初から、観測されていないだけだ」
――沈黙。
「それ、フォローか?」
「数学的には正しい」
「やめろ!!」
リディアは、きょとんと首を傾げた。
「殿下、何か問題でも?」
「……いや」
アランは、深く息を吐く。
(……この場では、俺が一番弱い)
その横で、
リディアは最後の一口を飲み干し、満足そうに微笑んだ。
「やはり、甘いものは正義ですわね」
誰も否定しなかった。
セラフは紅茶を、
ルカは頭痛を、
アランは尊厳(虚数)を抱えたまま――
今日も学院は、平和だった。




