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第五十四話:選択が秤にかけられる夜

夜は、まだ深かった。


 王都は静まり返っている。

 先ほどまで響いていた声が、

 まるで嘘だったかのように。


 ルカは、路地の影に立ったまま、動けずにいた。


(……選択、か)


 頭では理解している。

 これは、罠だ。

 時間を与えるふりをした、追い込み。


 子どもを餌に、

 正しさを競わせる。


(分かってる)


 分かっているのに、

 胸の奥が、嫌な音を立てている。


 火ではない。

 破壊でもない。

 ――選ばせるだけ。


(……一番、やりにくい)


 守るか。

 動かすか。

 優先するか。


 どれも、正しい理由を持てる。

 だからこそ、

 間違いも同時に生まれる。


 ルカは、無意識に手を握りしめていた。


(……ああ)


 この感覚を、

 知っている。


 答えを出す前に、

 誰かの人生が、

 静かに秤に乗せられる夜。


 名前は、まだ出てこない。

 記憶も、繋がらない。


 それでも――

 これは、経験した問いだ。


(……だから、嫌なんだ)


 ルカは、顔を上げる。


 遠くで、

 リディアとアランの気配がする。


 二人とも、まだ答えを出していない。

 それでいい。


 今は――

 まだ、誰も動かない方がいい。


 夜は続く。

 選択が形になる、その直前まで。

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