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第五十二話:同じ火を見るために

地図の上に、灯りが落ちていた。


 王都全域。

 夜間警戒令で巡回が増えた区域。

 そして――焼け跡。


 アランは、指でその一つをなぞった。


「ここだ」


 短く、断定する声。


「次に火が出るとしたら、

 抑止が強い場所じゃない」


 ルカが頷く。


「王家が守りを厚くした所を避ける。

 でも、完全な僻地でもない」


 地図の端を指す。


「……この一帯だ」


 リディアは、その位置を見て息を飲んだ。


「……人が、残りやすい場所ですね」


「だからこそ、選ばれる」


 アランは否定しなかった。



「まず、役割を決める」


 王子としてではなく、

 一人の判断者として言う。


「リディア。

 お前は、現場に近づきすぎるな」


 即座に反論が来ると思った。

 だが――


「条件付きで、了承します」


 リディアは、静かに言った。


「私が行かないと、

 民は“救われる対象”としてしか扱われません」


 ルカが、息を吐いた。


「……分かってる」


 少しだけ、声を落とす。


「だから、今回は一人で行かせない」



 ルカは、地図の裏側にメモを走らせた。


「俺は、裏を嗅ぐ」


「また単独行動か」


 アランの視線が鋭くなる。


「今度は違う」


 ルカは、はっきり言った。


「“戻る前提”で動く」


 沈黙の後、アランが頷いた。


「……報告を絶対条件にする」


「当然だ」



「俺は」


 アランは、地図を折り畳む。


「囮になる」


 二人が、同時に顔を上げた。


「殿下――」


「王子だからできる役だ」


 視線を逸らさない。


「火を使う相手は、

 必ず“象徴”を見たがる」


 静かに、言い切る。


「なら、見せてやる」



 部屋に、短い沈黙が落ちる。


 リディアは、二人を見た。


(……同じだ)


 前に立つ者。

 止める者。

 飛び込む者。


 でも今は、

 重なっている。



「ひとつ、約束してください」


 リディアが言った。


「誰かが危険を感じたら、

 即、全員が引く」


 アランが、先に頷く。


「命令だ」


 ルカも続く。


「異論なし」


 その言葉に、

 リディアの胸が、少しだけ軽くなる。



「……変ですね」


 リディアが、微かに笑う。


「一番怖いはずなのに、

 今は……一人じゃないと思える」


 アランは、目を伏せた。


(それが、一番危険だ)


 だが同時に。


(それでも、進む)



 灯りが消される。


 作戦は、完璧ではない。

 想定外も、必ず起きる。


 それでも――


 三人は、同じ火を見る場所に立つと決めた。


 誰かを試すための炎ではなく、

 止めるための炎として。


 夜が、静かに深まっていく。


 ――これは、最初の作戦だった。

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