第五十二話:同じ火を見るために
地図の上に、灯りが落ちていた。
王都全域。
夜間警戒令で巡回が増えた区域。
そして――焼け跡。
アランは、指でその一つをなぞった。
「ここだ」
短く、断定する声。
「次に火が出るとしたら、
抑止が強い場所じゃない」
ルカが頷く。
「王家が守りを厚くした所を避ける。
でも、完全な僻地でもない」
地図の端を指す。
「……この一帯だ」
リディアは、その位置を見て息を飲んだ。
「……人が、残りやすい場所ですね」
「だからこそ、選ばれる」
アランは否定しなかった。
◆
「まず、役割を決める」
王子としてではなく、
一人の判断者として言う。
「リディア。
お前は、現場に近づきすぎるな」
即座に反論が来ると思った。
だが――
「条件付きで、了承します」
リディアは、静かに言った。
「私が行かないと、
民は“救われる対象”としてしか扱われません」
ルカが、息を吐いた。
「……分かってる」
少しだけ、声を落とす。
「だから、今回は一人で行かせない」
◆
ルカは、地図の裏側にメモを走らせた。
「俺は、裏を嗅ぐ」
「また単独行動か」
アランの視線が鋭くなる。
「今度は違う」
ルカは、はっきり言った。
「“戻る前提”で動く」
沈黙の後、アランが頷いた。
「……報告を絶対条件にする」
「当然だ」
◆
「俺は」
アランは、地図を折り畳む。
「囮になる」
二人が、同時に顔を上げた。
「殿下――」
「王子だからできる役だ」
視線を逸らさない。
「火を使う相手は、
必ず“象徴”を見たがる」
静かに、言い切る。
「なら、見せてやる」
◆
部屋に、短い沈黙が落ちる。
リディアは、二人を見た。
(……同じだ)
前に立つ者。
止める者。
飛び込む者。
でも今は、
重なっている。
◆
「ひとつ、約束してください」
リディアが言った。
「誰かが危険を感じたら、
即、全員が引く」
アランが、先に頷く。
「命令だ」
ルカも続く。
「異論なし」
その言葉に、
リディアの胸が、少しだけ軽くなる。
◆
「……変ですね」
リディアが、微かに笑う。
「一番怖いはずなのに、
今は……一人じゃないと思える」
アランは、目を伏せた。
(それが、一番危険だ)
だが同時に。
(それでも、進む)
◆
灯りが消される。
作戦は、完璧ではない。
想定外も、必ず起きる。
それでも――
三人は、同じ火を見る場所に立つと決めた。
誰かを試すための炎ではなく、
止めるための炎として。
夜が、静かに深まっていく。
――これは、最初の作戦だった。




