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第四十九話:同じ夜に立つ

その部屋は、灯りが少なかった。


 夜が深い。

 昼の騒ぎが嘘のように、

 王宮は静まり返っている。


 リディアは、椅子に腰掛けたまま、

 まだ乾ききらない髪を指で押さえていた。


「……怒られると思ってました」


 ぽつりと、呟く。


 その言葉に、

 アランはすぐに返さなかった。

 ルカも同じだった。



「無事でよかった」


 最初に口を開いたのは、アランだった。


 責める声ではない。

 だが、安堵だけでもない。


「それだけは……本心だ」


 リディアは、少しだけ目を伏せる。


「……すみません」


「謝るな」


 即座だった。


「謝られると、

 俺が“止めなかった”ことまで

 否定される」


 空気が、微かに揺れる。



 ルカは、腕を組んだまま立っていた。


「……正直に言う」


 低い声。


「二度と、ああいう真似はするな」


 リディアが顔を上げる。


「でも――」


「言うな」


 遮る。


「理由があるのは分かってる。

 正しかったのも、理解してる」


 歯を噛みしめる。


「それでもだ」


 沈黙。


 アランは、その横顔を見ていた。

 ルカの声が、いつもより硬いことに気づいている。



「……俺は」


 ルカは、少しだけ間を置いた。


「昔、同じことを止められなかった」


 それ以上は言わない。

 言えない。


 だが、リディアは理解した。


 ――重さが違う。


「……ルカ」


「次は」


 強く、言い切る。


「一人で決めるな」


 その言葉は、

 命令でも、懇願でもなく、

 決意だった。



 リディアは、ゆっくりと息を吸う。


「……分かりました」


 二人を見る。


「でも、ひとつだけ」


 視線は揺れていない。


「私は、

 見捨てる選択はしません」


 アランが、目を閉じた。


(……やはり)


 それは、王としては危険な資質。

 だが――


(それでも、彼女は)


「だから」


 リディアは続ける。


「次からは……

 必ず、呼びます」


 その言葉に、

 ルカの肩から、わずかに力が抜けた。



「……卑怯だな」


 アランが、低く笑う。


「そうやって、

 俺たちを“一緒に立たせる”」


「ごめんなさい」


「謝るなと言っただろう」


 だが、声音は柔らかい。



 三人の間に、

 短い沈黙が落ちる。


 敵の名も。

 前世の話も。

 この場では出ない。


 だが、

 共有されたものは確かにあった。



「……決めよう」


 アランが言った。


「次に、同じ状況が来たら」


 視線を、二人に向ける。


「誰かが飛び込む前に、

 三人で動く」


 ルカが頷く。


「役割分担だな」


「そうだ」


 リディアは、

 そのやり取りを見て、

 少しだけ微笑んだ。


(……一人じゃない)



 夜は、まだ深い。


 だが、

 三人は同じ場所に立っていた。


 守る者。

 止める者。

 飛び込む者。


 どれか一つでは、足りない。


 ――それを、

 全員が理解してしまった夜だった。

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