第四十九話:同じ夜に立つ
その部屋は、灯りが少なかった。
夜が深い。
昼の騒ぎが嘘のように、
王宮は静まり返っている。
リディアは、椅子に腰掛けたまま、
まだ乾ききらない髪を指で押さえていた。
「……怒られると思ってました」
ぽつりと、呟く。
その言葉に、
アランはすぐに返さなかった。
ルカも同じだった。
◆
「無事でよかった」
最初に口を開いたのは、アランだった。
責める声ではない。
だが、安堵だけでもない。
「それだけは……本心だ」
リディアは、少しだけ目を伏せる。
「……すみません」
「謝るな」
即座だった。
「謝られると、
俺が“止めなかった”ことまで
否定される」
空気が、微かに揺れる。
◆
ルカは、腕を組んだまま立っていた。
「……正直に言う」
低い声。
「二度と、ああいう真似はするな」
リディアが顔を上げる。
「でも――」
「言うな」
遮る。
「理由があるのは分かってる。
正しかったのも、理解してる」
歯を噛みしめる。
「それでもだ」
沈黙。
アランは、その横顔を見ていた。
ルカの声が、いつもより硬いことに気づいている。
◆
「……俺は」
ルカは、少しだけ間を置いた。
「昔、同じことを止められなかった」
それ以上は言わない。
言えない。
だが、リディアは理解した。
――重さが違う。
「……ルカ」
「次は」
強く、言い切る。
「一人で決めるな」
その言葉は、
命令でも、懇願でもなく、
決意だった。
◆
リディアは、ゆっくりと息を吸う。
「……分かりました」
二人を見る。
「でも、ひとつだけ」
視線は揺れていない。
「私は、
見捨てる選択はしません」
アランが、目を閉じた。
(……やはり)
それは、王としては危険な資質。
だが――
(それでも、彼女は)
「だから」
リディアは続ける。
「次からは……
必ず、呼びます」
その言葉に、
ルカの肩から、わずかに力が抜けた。
◆
「……卑怯だな」
アランが、低く笑う。
「そうやって、
俺たちを“一緒に立たせる”」
「ごめんなさい」
「謝るなと言っただろう」
だが、声音は柔らかい。
◆
三人の間に、
短い沈黙が落ちる。
敵の名も。
前世の話も。
この場では出ない。
だが、
共有されたものは確かにあった。
◆
「……決めよう」
アランが言った。
「次に、同じ状況が来たら」
視線を、二人に向ける。
「誰かが飛び込む前に、
三人で動く」
ルカが頷く。
「役割分担だな」
「そうだ」
リディアは、
そのやり取りを見て、
少しだけ微笑んだ。
(……一人じゃない)
◆
夜は、まだ深い。
だが、
三人は同じ場所に立っていた。
守る者。
止める者。
飛び込む者。
どれか一つでは、足りない。
――それを、
全員が理解してしまった夜だった。




