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第四十五話:初仕事は、歓迎されない

王宮特別調査参与。


 その肩書きを与えられてから、

 まだ半日も経っていないというのに、

 リディアははっきりと理解していた。


(……歓迎は、されていない)


 会議室に入った瞬間、

 視線が刺さるように集まった。


「若すぎる」

「学院上がりだろう」

「殿下のお気に入り、という話だ」


 囁きは、あえて聞こえる音量だった。


 議長が淡々と告げる。


「本日の案件は三つ。

 まず一つ目――

 裏帳簿の不整合について」


 机に置かれた書類は分厚い。

 初日から、容赦がない。


「説明できる者は?」


 沈黙。


 数名が、ちらりとリディアを見る。

 ――やれ、という合図。


(試されている)


 リディアは、ゆっくりと書類に手を伸ばした。



「……この帳簿、数字は合っています」


 空気がざわつく。


「ですが、“合うように作られている”」


 顔を上げる。


「三年前の支出項目。

 名称が曖昧で、金額が端数なし。

 この形式は、緊急支出を装う際によく使われます」


 重鎮の一人が、鼻で笑った。


「学生の推測だな」


「では、確認しましょう」


 リディアは別の書類を示す。


「同年同月、別部署の記録です。

 同額が、別名目で二重計上されています」


 沈黙。


 誰かが、息を呑んだ。



「……偶然では?」


 食い下がる声。


 リディアは、首を振る。


「偶然にするには、整いすぎています。

 これは――

 “裏金を合法に見せる処理”です」


 会議室が、完全に静まり返った。


(当てた)


 だが、安堵はなかった。


 むしろ、背筋が冷える。


(ここからが、本番)



「……よろしい」


 議長が口を開く。


「では次だ。

 アルヴェーヌ嬢、この案件を引き継げ」


 引き継ぐ。

 つまり――責任者。


 それは、栄誉ではない。


(矢面に立て、という意味)



 会議後。


 廊下を歩くリディアに、

 冷たい声がかけられた。


「覚えておきなさい」


 振り向くと、年配の貴族。


「真実を暴く者は、

 必ず“敵”を増やす」


 リディアは、静かに答えた。


「承知しています」


 逃げなかった。



 夕刻。


 報告書をまとめる指が、少しだけ震える。


(怖くないわけがない)


 今日だけで、

 何人の敵意を向けられたか分からない。


 それでも。


(……でも、できた)


 誰かの後ろではなく、

 自分の名前で立った。



「初日で、ここまでやるとは」


 扉口で、声。


 アランだった。


「……やりすぎでしたか?」


「いや」


 即答。


「“洗礼”としては、完璧だ」


 少しだけ、笑う。


「もう誰も、

 君を飾りだとは思わない」


 それは祝福ではない。

 戦場に立った者への宣告だった。



 一人になってから、

 リディアは窓の外を見た。


(怖い)


 でも。


(逃げたい、とは思わない)


 胸の奥に、確かなものが残っている。


(私は、ここに立つと決めた)


 それが、今日の結論だった。


 ――王宮は優しくない。

 けれど、彼女はもう戻らない。

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