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第四十三話:名を呼ばれる場所

王宮からの召喚は、簡潔だった。


『アルヴェーヌ嬢を、至急、評議会へ』


 理由は書かれていない。

 けれど、リディアには分かっていた。


(来た……)


 自分が差し出すと決めた“立場”。

 それを、王宮が見逃すはずがない。



 評議会の間は、いつもより静かだった。

 重鎮たちの視線が、一斉にリディアへ向く。


「アルヴェーヌ嬢」


 議長が口を開く。


「先日の騒動について、

 貴女の関与が取り沙汰されている」


 関与。

 その言葉が、冷たく響く。


「貴女は、自ら前に出る意思を示したと聞いた」


 アランが一歩前へ出ようとするのを、

 リディアは、ほんの僅かな仕草で制した。


「……はい」


 自分の声で答える。


「私は、

 この件から退くつもりはありません」


 ざわり、と空気が動く。


「覚悟はあると?」


「はい」


 短く、迷いなく。



 議長は、しばらくリディアを見つめてから言った。


「では――

 貴女を、王宮特別調査参与として迎える」


 言葉の意味が、ゆっくりと落ちる。


「立場を与える代わりに、

 責任も全て負ってもらう」


 それは、庇護ではない。

 利用でもない。


 **前線への指名**だった。



 セラフの風が、微かに揺れる。


(……逃げ道は、完全に塞がれた)


 アランは歯を食いしばる。


(守ると言ったはずなのに……

 それでも、彼女は前に立つ)



「異論は?」


 問われる。


 数秒の沈黙。

 その間に、リディアは一度だけ深呼吸した。


(私は、選んだ)


「……ありません」


 その声に、評議会は頷いた。


「では、正式に命じる」


 議長の声が響く。


「リディア・アルヴェーヌ。

 貴女は今より、

 この国の“表”と“裏”の境界に立つ」



 会議の後。


「……後悔しているか」


 アランが、低く尋ねる。


 リディアは首を振った。


「怖いです。でも……」


 視線を上げる。


「誰かの血の上で、

 何も知らないふりはできません」


 セラフが、静かに言った。


「君は、もう“鍵”じゃない」


「?」


「“選ぶ人”だ」


 その言葉に、胸が少しだけ軽くなる。



 同じ頃。


 王宮の影で、金色の瞳が細められた。


(ほう……)


 楽しげに。


(自分から檻に入るとは)


 だが、声には確かな興奮があった。


(いい。

 それでこそ、奪い甲斐がある)


 彼は、次の一手を決める。


(次は――

 彼女の“決定”を、歪めてみよう)


 王宮の鐘が鳴る。


 それは、任命の合図であり、

 後戻りできない宣告でもあった。


 ――物語は、

 完全に政治の中心へ踏み込んだ。

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