第四十三話:名を呼ばれる場所
王宮からの召喚は、簡潔だった。
『アルヴェーヌ嬢を、至急、評議会へ』
理由は書かれていない。
けれど、リディアには分かっていた。
(来た……)
自分が差し出すと決めた“立場”。
それを、王宮が見逃すはずがない。
◆
評議会の間は、いつもより静かだった。
重鎮たちの視線が、一斉にリディアへ向く。
「アルヴェーヌ嬢」
議長が口を開く。
「先日の騒動について、
貴女の関与が取り沙汰されている」
関与。
その言葉が、冷たく響く。
「貴女は、自ら前に出る意思を示したと聞いた」
アランが一歩前へ出ようとするのを、
リディアは、ほんの僅かな仕草で制した。
「……はい」
自分の声で答える。
「私は、
この件から退くつもりはありません」
ざわり、と空気が動く。
「覚悟はあると?」
「はい」
短く、迷いなく。
◆
議長は、しばらくリディアを見つめてから言った。
「では――
貴女を、王宮特別調査参与として迎える」
言葉の意味が、ゆっくりと落ちる。
「立場を与える代わりに、
責任も全て負ってもらう」
それは、庇護ではない。
利用でもない。
**前線への指名**だった。
◆
セラフの風が、微かに揺れる。
(……逃げ道は、完全に塞がれた)
アランは歯を食いしばる。
(守ると言ったはずなのに……
それでも、彼女は前に立つ)
◆
「異論は?」
問われる。
数秒の沈黙。
その間に、リディアは一度だけ深呼吸した。
(私は、選んだ)
「……ありません」
その声に、評議会は頷いた。
「では、正式に命じる」
議長の声が響く。
「リディア・アルヴェーヌ。
貴女は今より、
この国の“表”と“裏”の境界に立つ」
◆
会議の後。
「……後悔しているか」
アランが、低く尋ねる。
リディアは首を振った。
「怖いです。でも……」
視線を上げる。
「誰かの血の上で、
何も知らないふりはできません」
セラフが、静かに言った。
「君は、もう“鍵”じゃない」
「?」
「“選ぶ人”だ」
その言葉に、胸が少しだけ軽くなる。
◆
同じ頃。
王宮の影で、金色の瞳が細められた。
(ほう……)
楽しげに。
(自分から檻に入るとは)
だが、声には確かな興奮があった。
(いい。
それでこそ、奪い甲斐がある)
彼は、次の一手を決める。
(次は――
彼女の“決定”を、歪めてみよう)
王宮の鐘が鳴る。
それは、任命の合図であり、
後戻りできない宣告でもあった。
――物語は、
完全に政治の中心へ踏み込んだ。




