閑話Ⅸ:王立学院・どうでもいい一日
その日、王立学院は平和だった。
何も起きない。
陰謀もない。
血も出ない。
誰も選ばない。
――奇跡である。
◆
「なぁ聞いたか」
「何を?」
「購買のパン、味変わったらしいぞ」
「それは事件だな」
「いや、ガチで」
学生たちは真剣だった。
国家の未来より、昼食が大事。
◆
中庭では、意味のない論争が起きていた。
「噴水の水って飲めるのかな」
「飲むな」
「でも王宮の水源だし」
「飲むなって」
結果、
一人が飲んで怒られた。
◆
図書室。
「……この本、上下逆じゃない?」
「ほんとだ」
「誰が戻したんだ」
「知らん」
本の内容はどうでもよかった。
◆
風紀委員室。
「今日は静かだな」
ルカが言った。
「何も起きてない日は珍しい」
その瞬間。
「ルカくーん!」
「購買のパン、どれが一番美味しいと思う!?」
「……仕事しろ」
◆
廊下の隅。
「セラフ伯爵ってさ」
「うん」
「たまに壁と話してない?」
「風だろ」
納得された。
◆
医務室前。
「アラン殿下、回復食これでいい?」
「塩が薄い」
「重傷患者が文句言うな」
静かに口論。
◆
その頃、当のリディア。
……いない。
今日は珍しく、
学院の外で普通に散歩していた。
「……平和ですね」
誰にも聞かれない独り言。
◆
こうして今日も、
王立学院はどうでもないことで満ちていた。
――たぶん、明日はまた地獄。
でも今日は、これでいい。




