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第三十六話:金眼は鍵を呼ぶ

夜は静かだ。

 静かであるほど、欲望はよく響く。


(……鍵は、確かに目覚めた)


 フードの奥、金の瞳が月を映す。

 あの夜、風が荒れ、炎が揺れ、

 そして――彼女が名を呼んだ。


(王子の名を)


 喉の奥で笑いが漏れる。


 鍵は選ぶ。

 だが同時に、選ばれる。


(王子か。伯爵か。

 それとも――王家そのものか)


 指先に残る微かな痕跡。

 彼女の魔力は、ただの“強さ”ではない。


(“開く”力だ)


 古文書が語っていた。

 鍵を宿す者は、扉を選べる。

 王を超える扉。

 国を変える扉。

 血を断ち切る扉。


(そして……)


 金眼は細まる。


(俺を“自由”にする扉)


 王家は嘘を重ねてきた。

 影に生まれ、影として使われ、

 名も、権利も、未来も奪われた。


(鍵さえあれば、すべて取り戻せる)


 彼女は知らない。

 自分が“鍵”であることを。

 だからこそ、近づける。


(恐怖で縛る必要はない)


 彼女は優しい。

 守ろうとする。

 名を呼び、手を伸ばす。


(……その手を、俺が取る)


 王子はまだ理解していない。

 伯爵も、風に守られているだけだ。


(鍵は、選ばれるものじゃない)


 選ぶのは――鍵だ。


 フードの内で、金眼が笑う。


「リディア・アルヴェーヌ……

 次は、君が“開く”番だ」


 風が止んだ。

 夜が、深く息をした。


(王家の影は、もう影でいるつもりはない)


 月の下、金の瞳が消える。


 次に現れる時、

 彼は“奪う者”として現れるだろう。

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