第四話:王都の門
前回までのあらすじ:
辺境伯家の令嬢リディアは、前世で宰相だった記憶を持つ少女。王国の未来を変えるため、政治学院を目指し王都へと向かう――。
王都の門は、思っていたよりもずっと高かった。
灰色の石壁が空を遮り、陽を弾く金属の門扉が重くそびえる。その光景に、リディアは一瞬、息を止めた。
――懐かしい。けれど、同じではない。
前世の記憶の中にある王都の姿は、もっと秩序だった静けさを持っていた。だが今は、露店の声と車輪の音が溢れ、空には魔力の光がちらちらと揺れている。
人々の喧噪が生きた熱を持っている。それは、変わった王国の鼓動だった。
「お嬢様、門の検査があるようです」
ミリエルの声に、思考が現実へ戻る。門前では、貴族と魔法師で列が分けられ、それぞれ衛兵が通行許可証を確認していた。
リディアたちは“辺境貴族”の列に並んだ。周囲の視線が、少しだけ冷たい。
「身分証を拝見します」
衛兵が淡々と告げる。だが視線は、リディアの年齢にわずかに驚きの色を浮かべていた。
「お嬢様で? 辺境から……?」
「ええ。入城規約第十二条にありますわ、“爵位を有する家の令嬢は護衛を伴い通行可”と。違いましたか?」
落ち着いた声。表情も変えずに、まっすぐ相手の目を見る。
衛兵は一瞬言葉に詰まり、慌てて書類を確かめる。
「……確認いたしました。お通りください、アルヴェス令嬢」
「ありがとうございます」
通り過ぎた瞬間、ミリエルが小声で笑った。
「さすがでございます。見事な切り返しでしたね」
「いえ、ほんの確認ですわ。前世で何度も通った門ですもの」
懐かしさが胸をかすめる。だが、それは過去の残像にすぎない。
ソラスが膝の上で動いた。白い毛並みが揺れ、金の瞳がちらりと光る。
その瞬間、門の上から吹いた風がリディアの髪を撫でた。
――あの頃も、こうして風が吹いていた。
馬車が再び動き出す。門を抜けた先、王都の街路が広がる。
石畳の上に並ぶ商店、魔法師の使い魔が飛び交う空、遠くに見える中央塔――そこが王立政治学院のある場所だ。
「王都は……やはり華やかですね」
ミリエルが窓の外を見ながら呟いた。
「ええ。けれど、華やかさの裏にこそ、影は生まれます」
リディアはそう言いながら、視線を塔に向けた。
その高さが、まるで前世の記憶と今の自分を隔てているように見えた。
けれど、彼女の胸には確かな決意が宿っている。
――今度こそ、この国を正しく導くために。
馬車が学院の門前で止まる。
鐘の音が遠くから響き、金の飾りが朝陽を受けて輝いた。
「ミリエル」
「はい」
「行きましょう。ここからが、私の第二の政治です」
扉が開き、風が一歩を押した。
◇◇◇
次話予告:
「学院序章」――王都の学舎にて、彼女は再び“策士”として歩き出す。
◇◇◇
【後書き】
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
第四話では、リディアが初めて王都に足を踏み入れました。
“懐かしさ”と“変化”の対比を通して、前世の記憶と今の自分の差を描いています。
門前での小さなやり取りは、彼女の“政治的勘”を読者に示す場面でした。
静かな会話の裏で、もうすでに政治は始まっている――そんな意識で書いています。
次回はいよいよ学院編。
彼女がどのように人間関係を築いていくのか、ぜひお楽しみに!
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今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
(春野 清花)




