第三十二話:夜の刃に触れる影
◆アラン視点
暗い廊下にひとり。
護衛との連携も断たれ、足音だけが鳴る。
(囮か……上等だ)
「出てこい。俺の“弱点”を狙う卑怯者が」
嘲るように挑発すると、
闇の奥で衣擦れの音がした。
黒装束に身を包んだ男が、何人も姿を現す。
「リディアを害すつもりなら——」
灰青の瞳が鋭い青を灯す。
「俺は、お前たちを殺す」
剣が月光を裂いた。
襲撃者たちが一斉に飛びかかる。
アランは迷いなく斬り捨てる。
ひとり残らず、地に伏せさせるまで止まらない。
(君に触れる刃は、全部俺が折る)
その執念だけが、体を動かしていた。
——しかし。
「っ……ぐ……!」
背に焼けるような痛み。
影から放たれた一撃が、アランの膝を落とさせる。
(まだ……だ)
立ち上がりかけた瞬間。
黒いマントの男が前に立った。
「王太子。貴方は、間違えた。
“光”を拾う資格などない」
「……誰だ」
「すぐに分かる。貴方の終わりと共に」
◆リディア視点
「アラン殿下!!」
思わず叫んだ声が夜に響く。
セラフと共に、駆けつけた廊下で見たのは
血の跡
剣閃の痕
そしてーー
膝をつきながらも前に立つアランの背。
迷わず駆け寄ろうとした瞬間、
セラフに手首を掴まれる。
「危険だ」
「離してください!」
初めて、リディアは力ずくで振り払った。
「お願い……今、あの人を置いて行けません!」
(死なせない……)
胸の底から、熱が溢れ出す。
(この痛みの理由……分かりたくない)
でも、
(放っておけない……どうして?)
◆セラフ視点
(やはり……君は彼を選ぶ顔をしている)
苦しい。
胸の奥でずっと風が泣いている。
だが。
(守りたいなら、行け。
君が選んだ未来だ)
セラフは剣を抜き、前へ出た。
「僕が道を切り開く。君は——アラン殿下へ」
風が吠えた。
◆敵影(???)視点
(愚かな王子。
何故、手を伸ばす先を選べもしないくせに)
黒いフードの奥で、金色の瞳が笑う。
(あの娘は光だ。王族の玩具にはできない)
「奪う。どの手からも」
(運命は、僕のものだ)
◆三人視点入り乱れ
「アラン殿下!!!」
「リディア……来るな……!」
「僕が守る!!」
三人の叫びが交錯する。
鋼の音が散り、
夜風が血の匂いを運ぶ。
正義も愛も、まだ形を持たない。
ただ、守りたい。
奪われたくない。
その理由を理解する前にーー
(あなたが……死んだらわたし……)
リディアの喉が詰まる。
その時、黒い影がリディアへ刃を振りかざした。
「ッ!!」
アランが身を投げ出す。
セラフが風を纏い割って入る。
刃が壁に突き刺さり、火花が散る。
アランはリディアを抱き寄せた。
「俺から離れるな……ッ!!」
セラフがアランと影の間に立つ。
「彼女を渡さない……誰にも!!」
夜が裂けるーー
恋と戦の境界線で。




