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第二十二話:夜明け前の盤上


 王都はまだ、深い夜の底に沈んでいた。

 だが、宰相府の一室だけは、薄明かりの中で静かに駒音を響かせている。


「このままでは、改革は『理想』のままだ」

 アランは盤上を見据えたまま呟く。


 リディアは静かに相槌を打ち、彼の手元に視線を落とした。

 指先が、かすかに震えていることに気づいたからだ。


「焦りは、隙です。殿下」

「……わかっている。でも」


 言葉を切ったアランの横顔は、少年らしさと、王太子の覚悟が入り混じっていた。


 ――その眼差しが、リディアを射抜くたび。


 胸の奥が、痛む。


(どうしてこんな……)


 以前なら、ただ忠誠の印として見つめられているとしか思わなかった。

 だが今は――違う。

 意識してしまう。

 彼の真っ直ぐすぎる優しさを。



「リディア」


 不意に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。

 視線を向けると、アランが眉を寄せている。


「無理していないか?」

「え? あ、いえ……少しだけ、その……」


 頬が熱くなる。

 アランの手が伸び、リディアの手の甲に触れた。


 冷たい指先が、温めるように包む。


「顔が赤い。……熱では?」

「そ、そんな、大丈夫ですから……っ」


 鼓動が喉まで上がってくる。

 離れなくてもいい――そんな自分が怖い。


 アランが気づき始めている。

 その証拠に、瞳の奥に宿る炎が、今や隠せていない。


(だめ……いま、気付かないで……)


 ルカの顔が、一瞬脳裏に浮かんだ。



 一方、廊下の陰でそれを見つめる影があった。


「……ちッ」


 低い声が漏れる。

 拳を強く握りしめたルカは、眉間に皺を寄せた。


(何が“無理していないか”だ。どの口が言ってんだよ)


 気づいてはいけない。

 気づけば――終わる。


 自分が抱いた、名前のない感情が。


「あいつは王太子だ。俺と違って……お前を守れる立場だ」

 苦く笑い、足元を見つめる。


 そこへ背後から、ふわりと影が寄った。


「……拗ね顔の君も、悪くない」


「っ!?」

「まぁ、僕はどんな君も好きだけど?」


 金糸の髪、悪戯な笑み。

 セラフ・ノア=リュミエールが、楽しげに囁く。


「お前、見て楽しんでるだけだろ」

「当然。恋は観察するものだよ?」

「……殴っていいか?」

「殴る前に、まず君のその感情に名前をつけたら?」


 胸が跳ねた。

 認めたくない言葉を、真っ直ぐ突いてくる。


「……黙れ」

「ふふ。でも焦らないで。恋は戦いだ。

 それも――王太子とのな」


 そう言い残しセラフは踵を返す。

 残されたルカは、夜気の中で小さく呟いた。


「……気づかれたく、なかったのにな」



 近くの教会では、既に鐘が鳴り始めていた。


 夜明けが来る。

 理想と現実が衝突する、運命の朝が。


「始めましょう。殿下」

「あぁ。次の一手を」


 盤上の駒が動き出す。

 恋と政治――

 三つ巴の戦いが、いま幕を開けた。

◇後書き


読んでくださりありがとうございます!

……はい、三つ巴、爆誕いたしました( 'ω')✨


アランは優しさに見せかけて押しが強いし、

ルカは自覚した瞬間から地獄の嫉妬ロードに入るし、

セラフは全部見抜いた上で煽るしで……


リディア、生きて……!!!!(概念の叫び)


次回は、恋と政治と嫉妬がさらに交差します。

盤上の駒だけじゃなく、

心も動き出してしまったみたいで——


それでは、また次の一手でお会いしましょう。

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