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第十九話:図書塔での邂逅



魔術塔の帰り道、

ルカは資料を返すために

古い図書塔へ足を運んでいた。


階段を上る途中——

微かな声が聞こえた。


静まり返った塔では、

小さな囁きでもよく響く。


(……誰かいる?)


この時間に図書塔を使う者は少ない。

珍しいと思いながら、

足を止めず階段を一段ずつ上がっていく。


やがて視界に──

灯りの揺れる読書室が入った。


そして、ルカは見てしまった。


机に向かい合う、

二人の姿を。


リディアとアラン。


リディアが少し疲れたように眉を寄せ、

アランがその横顔を心配そうに見つめていた。


アランの指先が

ほんの少しだけ机の上で動き、

リディアの紙束をそっと押し返す。


触れない。

でも、触れそうなほど近い距離。


その一瞬だけで——

ルカの胸に、

理由のない痛みが走った。


どうして、こんなにも……。


喉の奥がきゅ、と締まる。

息が浅くなる。


リディアが少し俯き、

アランが静かに言う。


「無理は、するなよ。……君が倒れたら困る」


その声音が優しすぎて、

ルカは目を逸らした。


胸の奥に、

針が刺さったような熱が広がる。


(……嫌だ。

 この感情は、なんだ……?)


嫉妬だと、頭では分からない。

けれど、魂が覚えている。


“その人を守るのは、私だった”

“隣に立つのは、自分だった”


そんな記憶のない記憶が、

心の底で疼く。


ルカは静かに息を吐き、

足音を立てないよう引き返した。


二人に気づかれなかったのは幸いだった。

気づかれたら困る。

この顔を悟られるわけにはいかない。


階段を降りる途中——

胸の奥の痛みは、

まるで誰かの名残のように

離れようとしなかった。


(……どうしてなんだ。

 どうして、こんなにも苦しい)


答えは分からない。


ただ一つだけ確かなのは、


リディアが“他の誰か”と心を通わせる光景が、

たまらなく辛い、ということだけだった。


その感情は、

この先彼の心をゆっくり、確実に蝕んでいく。


静かに。

深く。

痛く。

静かな章でした。

誰も言葉を荒げず、誰も悪役にならないのに──

少しずつ、確実に心が痛む回。


今回の焦点は“ルカの心の揺らぎ”でした。


彼はまだ何も知らない。

前世の記憶も、魂の因果も、

なぜ胸が痛むのかさえ理解できない。


それでも、

リディアとアランが並ぶ光景だけが

理由なく胸を締めつける。


本人に自覚がない分、感情は鋭く、純粋で、残酷です。


ルカは優しくて、穏やかで、誰より繊細。

なのに、

「譲れない」

「離れたくない」

そんな感情だけが先に目を覚まし始めています。


まるで魂が、

昔の“失ったもの”を取り戻そうと

震えだすように。


これから、ルカの心はまだゆっくりと揺れ続けます。

静かに──深く。


次回、第20話では

その感情が“行動”へと変わる瞬間を描いていきます。


読んでくださり、ありがとうございました。

少しでも胸に残るものがあれば嬉しいです。

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