幕間Ⅱ:懐かしさは、記憶ではなく痛みだった
──初めて会ったはずだ。
理屈ではそうなのに、心が妙に落ち着かない。
銀色の瞳。
凛とした声。
感情を抑えながらも、時折滲むあの優しさ。
どれも初見のはずなのに……
胸の奥に、説明できない“懐かしさ”が蘇る。
まるで長い時間をともに過ごした誰かを、
再び目の前に見つけたかのような──そんな錯覚。
(……いや、錯覚ではないのかもしれない)
彼女の視線がふとこちらに向く。
その一瞬、胸の奥が鋭く痛んだ。
痛みは、悲しみに似ていた。
理由は分からない。
こんな少女に心を乱されるような生き方はしてこなかった。
それでも。
彼女の横顔を見ると、
“もう二度と失いたくない” と、説明不能な焦りが胸を締めつける。
そんなもの、抱くはずがないのに。
王宮で育った自分は、
ずっと「選ばれる側」でありながら、
何ひとつ本当の意味では手に入れたことがない。
なのに彼女には──。
(……守りたい。理由もなく)
その願いは、妙に具体的で、
まるで“前にもそう思ったことがある”ような既視感を伴う。
思い出せないのに、思い出そうとするほど胸がざわつく。
ときどき、彼女が笑うと胸が温かくなる。
泣きそうな顔をすると胸が痛む。
これは恋ではない。
そんな単純なものではない。
もっと……ずっと深い。
時間さえ超えて続くような、
抗いようのない感情の名を、
自分はまだ知らないだけだ。
(なぜだ……なぜ、君を失った記憶などないのに)
(まるで──取り戻したくて仕方がない“過去”があるように感じる)
銀の瞳が揺れるたび、胸の奥の影も揺れる。
その影が、何を語ろうとしているのか。
……今はまだ、知らない。
今回はアラン視点で「理由の分からない胸の疼き」が芽を出す回でした。
彼自身はまだ気づいていませんが、
“懐かしい” という感情が前世の記憶に直結しているわけではなく、
リディアと向き合うたびに心の奥底が揺れるのは、
ただの既視感ではなく 前世で守れなかった痛みの名残 でもあります。
今はまだ彼の中の「違和感」程度ですが、
この小さな揺らぎが、やがて大きな選択の伏線になります。
次回も、アランの心の奥に積もった影を
そっと覗き込んでいただければ嬉しいです。
それでは、また次のお話で──。




