閑話Ⅲ:政治討論大会の裏で恋論大会が開かれていた件
王立政治学院の講堂には、春の陽が差し込んでいた。
本日は王国でもっとも格式高い行事、「政策討論大会」の日。
学生たちは緊張に包まれ、壇上には次代を担う若き頭脳たち――
……のはず、だった。
だが、壇上中央の宰相令嬢リディア・アルヴェーヌを前に、
青年五人の心はすでに国家よりも「恋愛が最重要議題」となっていた。
「透明性こそが政治の信頼を生む」
リディアが淡々と述べる。
すると即座にアランが手を挙げる。
「まったくその通りだ! 信頼は隣に立つことで築かれる! つまり――僕と君のように!」
講堂「?」
「おい殿下、恋愛の透明性とか誰も聞いてねぇぞ」
ルカがため息をつく。「公私混同、甚だしい」
「恋愛も政治も似たようなものだろう?」
「どこがだよ!!」
ルカの声にカイルが静かに頷く。
「いや、恋愛も戦場です。守るべきものがある限り、俺は盾を構える」
「それただの求婚じゃないですか」
セラフはその隣で指先を顎に当て、神妙に呟いた。
「愛とは理想。理想とは、政治の詩。すなわち恋の構文。」
「セラフさん、もう詩人通り越して哲学界の迷子ですわ」リディアがぼそりと呟く。
その横で、エリオルは真面目な顔でノートを取り始めた。
「恋愛は政治と同じで、データで説明できる。
例えばリディアの笑顔を見た者の幸福度は平均132%上昇する」
「統計にするな!」全員一致のツッコミである。
◇◇◇
やがて討論は佳境を迎えた。
本来の議題は“歳出の透明化”だったが、すでに内容は“誰がリディアの心に最も誠実か”へ変質していた。
壇上ではアランが拳を握り、情熱的に叫ぶ。
「私の提案こそ、愛と理想のバランスを取る最善策だ!」
即座にルカが立ち上がる。
「バランス取れてねぇよ! お前の政策、嫉妬税かけてくるじゃねぇか!!」
「愛の格差を是正しただけだ!」
「税制に愛持ち込むなぁぁぁ!!!」
セラフは静かに手を挙げた。
「愛税……響きは美しい。」
講堂「黙っててください!」
エリオルは淡々と続ける。
「私はむしろ恋愛の効率化を提案したい。時間と労力の節約になる。」
カイルが即座に剣の柄を掴む。
「効率で語るな! 愛は命を懸けるものだ!」
会場がざわつき、リディアは頭を抱えた。
「……あの、皆さま。これは“政策討論”で間違いありませんわよね?」
五人「「「「「もちろん!!(君のための)」」」」」
「違う意味で団結すな!!」
◇◇◇
結果発表。
講堂にはどよめきが走った。
「本年度の最優秀提案は――」
審査員長「……“恋愛は非課税”を主張したアラン殿下に!」
全員「なんでだ!!?」
◇◇◇
閉会後。
講堂の片隅で、リディアは椅子に腰かけ、深いため息をついた。
ミリエルが静かに近寄る。
「お嬢様、お疲れさまでした。……お飲み物を」
「ありがとう、ミリエル」
リディアは持参した小さなカップを取り出す。
甘く濃い香りがふわりと漂った。
「……ココアですわ」
アランたち五人、再び沈黙。
ミリエルは完璧な笑顔で囁いた。
「……お嬢様、また恋愛戦線を拡大なさいましたわね」
「……忘れなさい」
* * *
翌日の学院新聞には、こう書かれていた。
『政策討論大会、恋愛論争により終了。被害:講堂の照明3、王太子の理性1。』
──王国に平和はまだ、遠い。
To be continued.




